U字型に曲がった校舎の、丁度向かい側の俺たちのクラスの前の様子は、国語準備室前の廊下からよく見えた。
だけど俺は、自慢ではないが目が悪い。あれは、抱きしめあっているのだろうか。
本来教師としては学校内での生徒同士の色恋事にいい顔はできないが、この場合に限りそれでいいような気がする。それで苗字が土方に目覚めてくれたら…。
大人気ないのはよく分かっている。だけど俺は子どもじゃない。いろいろと弁えなければならないし、教師として通常を逸した生徒を正しい道に沿わせてやらないといけない。
だから、これでいい。俺は明日からもいつもの顔でだるく授業を進めればいいだけだ。簡単なことだ。俺の得意分野だ。逃げているとも言う。

いつも俯きがちに俺を見上げる目、照れ笑い、控えめなのに回りに振り回されたりしないで、きちんと自分を持っている。あいつはそういう奴だ。だからあんな動物園状態のクラスで、唯一まともな精神を持ち尚且つあいつらに受け入れられている。…まあ、まともな精神を持っていたらこんな薄汚い教師に変な情を持ったりしなかったのかもしれない。
まあ、あいつのことは嫌いじゃない。むしろ、いい生徒に分類されている。教師といえど、得意な生徒やいけ好かない生徒くらいいる。だって人間だもの。

苗字の俯きがちな照れ笑いが、ふっとフラッシュバックする。その時吹いた風やら、俺とは大違いのつるつるの髪がなびくところとか、そしてほんのり香った女のにおいとか。先生と地味系でけっこうカワイイ女子生徒。AVのシナリオとしてならけっこういけたかもしれない。だけど、実際教職をやればこの手のAVがどれほど現実離れしているのかよく分かる。まず、女子生徒に欲情とかアリエナイ。もうあいつらはただの厚化粧の動物だ。女子生徒に欲情とかアリエナイ。まじ、アリエナイ。

「ありえねー…クッソ」

白衣のポケットを漁った。出てきたのは煙草の空き箱だった。






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