「…は?」
若干の沈黙を破ったのはこの間の抜けたような声だった。勢いよく切り出せたせいか、あとはもう恥じらいもなく言葉を続けることができた。「だから、先生のことが」
「もういい!二度言わなくていいから!」
「…そうですか」少し残念そうな顔をしてみせる。自分でも何故こんな顔になってしまうのかは分からないが、私と同年代の女の子達は、よくこんな顔をする。
先生が驚くのは想定範囲内のことだった。むしろ驚かないとおかしい。
「お前なあ、それ、罰ゲームかなんかか?」
自分の率直な思いを、罰ゲームなどと蔑ろにされたことに純粋で多感な女子高生である私は傷つき、「違います!」と声を荒げた。「違います。好きなんです…本当に、先生のことが…」声が尻すぼみになってしまう。思いを否定された事は思ったよりも胸に深く突き刺さったようだ。視線も俯きがちになる。勇気を出すと決めたのに。それを実行できていないことが、さらに私の心を重くさせた。
先生は何も言わない。ただ沈黙が流れるばかりで、私はなんともいえない雰囲気に、視線を上げることすらままならない。心臓はやかましく動き回っているというのに、私の顔からは、だんだん熱が引いていく気配がした。形容しがたい気持ちが私の心を縦横無尽に這いずり回る。這った痕は色濃く残り、それがきゅっと心を締め付ける。
――走って逃げようか
ちらっとそんな事を思ってしまった時、頭に武骨な手が乗せられた。誰と言わずともここには私以外の人間は一人しかいない。息が詰まる。どうしよう、どうすればいいんだろう。そんな混乱が頭を一瞬で染める。自然のうちに握り締めていた手のひらがじわっと汗をかく。沈黙の中に、先生の息を吸う音が洩れた。
「1日ゆっくり考えろ、もう遅いから帰れ」
先生の声は、いつもと全く違わなかった。それが少し嬉しくもあり、「考えろ」、ともう先生の答えは決まっているような言い方が少し、いや結構悲しかった。
「はい」
「じゃあ、気をつけて帰れよ」
「はーい」
まるで何事もなかったかのように国語準備室を後にして、扉が閉まった瞬間に、誰にも見えないようにこっそり目を拭った。




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