キーンコーンカーンコーン

どちらにせよ、苗字次第だ。俺は既に1回あいつを振ってることになる訳だから、苗字がもう一度俺を見てくれることがあったら、そしたら、今度は俺も苗字を見よう。真っ直ぐに。ひとりの人間として、ひとりの人間である苗字を見よう。

ふっと、国語準備室の戸の向こう側に人の気配を感じた。まさかな、と戸のほうを向くと、女子生徒のシルエット。情けない音で2回ノック。これまた情けない声で「…せんせい」と呟く声。嘘だろ、おい。「はいれよ」ととりあえず言ってみると、言った三秒後にゆっくり戸が引かれた。思いつめたような表情の苗字と、俺は対面する。

「……」
「………」

静まり返る国語準備室。遠くで騒ぐ生徒の声が聞える。

「せんせい、わたし」
「うん」
「わたし、おかしいのかもしれない」
「…んなことねーよ」

今まで俯いていた瞳が、弾かれたようにこっちを見た。まったく平均的な大きさの、まんまるの瞳。まったく平均的な身長で、まったく平均的な成績。まったく平均的、というものさしで量れないような、苗字のきもち。

「せんせい、あのね」
「うん」
「あのね、わたしね」
「うん」
「やっぱり…やっぱり、ね」
「うん」

声が、ぐももった。鼻を啜る音がして、苗字はまた言葉を続ける。

「せんせいがすき」

その時だけ、音が完全になくなったかのような錯覚にかられた。
実際は自動車の音、生徒達の騒ぐ声。たくさんの音があったはずなのに、そんな些細なものは、俺が待っていたその言葉に全て攫われてしまった。

「ごめんなさい、わたし」
「謝るな、苗字が謝ったら、この話がバットエンドになっちまう」

違うの?瞳がそう問いかける。俺はとびきり優しい笑みを心がけて、言葉を紡ぐ。これでも国語教師だ。ロマンチストだ。

「お前がこの学校を卒業したら、そしたら、お前の彼氏にでもなんでも、なってやるさ」

とうとう苗字の瞳から、ぽろんと涙が零れた。

「うそ…」
「嘘じゃねえさ、そのかわり今すぐは無理。どうだ?」
「うん…っうん、ありがとう、ありがとう…せんせい」



捨てなくてもいい方法、みつけたよ。
待っていれば、勝手に脱げるんだから。

 


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