次の日の朝、まだ数人の生徒しか学校に居ないような朝早く。私は生徒玄関で靴箱を開けた。スノコに落ちる一枚の手紙。私はそれを拾って靴を履き替えることなく、再び玄関に出た。まだ人気のない、冷たい空気の中ざくざくと凍った音がする土を踏んで私が向かったのは焼却炉。ぱちぱちと音を立てて唸る火の中に手紙を捨てる。しばらくぼうっとそれを見ていると、うしろからざくざく足音がする。振り返るとそこに居たのは担任の土方先生だった。

「…先生」
「今日もか」

先生は私が影でいじめに遭っているのを知っている。だからまだ先生方もあまり来ていない時間から出勤して来るのだろう。私の隣に立った先生から、最近よく嗅ぐ花の臭いがした。

「坂田や高杉には言ってねえのか」

あの手紙には、きっと汚い言葉が坦々と綴られている。全て同じような内容で、毎日毎日よく飽きないなと思う。

「言わないよ、言える訳、ないよ」

だって原因がふたりなんだから。そう言葉にせずとも、土方先生は知っている。私とつるみ始めるまで、高杉君と銀時君は女遊びが激しかったらしい。だけど、私とつるみ始めてから、それがぴたりと止まった。

「嫉妬する女ってのは醜いもんだ」

土方先生が煙草の煙を吐いた。それが冬の透明な空気に溶け込んで行くのを私は見上げて、白い息を吐いた。これから教室に行って、きっと机に生けられているだろう菊の花を処分しなければならない。

「…先生」
「ん、泣くな。泣いたら今までお前が培ってきたものがパーになんぞ」

わしゃわしゃと頭をかき混ぜられて、早起きしてセットした髪がパーになったけど文句は言えない。先生の手が少し濡れていたので、先生の武骨な手を掴んで詰め寄ると、ばつが悪そうに視線を泳がせた。

先生は優しい。きっと、亡くなった奥さんのお陰なんだろう。
少し悲しくて少し優しい朝だった。

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