悲劇は、起きた。そして、それは最低の喜劇のようであった。
「お前、土方に気に入られてるっつー奴だろィ」
華奢に見えるのに私よりずっと大きい手、少なくとも私に軽々と影をつくってしまえるような身体。
「何か言えよ」
今日はコンビニに私だけ。最悪だ。一応30分後に銀時君が来る事になってる。
きっと教室で今日のシフトのことを喋ったから、今ここに沖田君がいるんだ。どうしよう
「お前見てるとイラつく」
沖田君は、そう言いながらも決して私から視線を逸らそうとしない。それは私なんかすぐに潰せるんだという自信からというよりも、どちらかといえば私の様子を深く伺っているようなまなざしだった。
「お…お、沖田…さん」
頭の中では君付けで呼んでいたけれど、今はとてもそんな馴れ馴れしく呼べるような状況じゃない。それでも声を出したのは、もしも30分後に来るはずの銀時君が、早めに来たりして、この状況をみられたら堪ったもんじゃないからだ。
沖田君はやっと声を出した私のようすを深く観察するように何も言わなかった。
「沖田さんって…本当は、やさしいんですよね?」
これは、その場逃れの絵空事なんかじゃあない。土方先生が言っていたことだ。それを聞いたとき私はまさか、と思ったけれど、このまなざしをみていればそれはよく理解できた。まるで私のことを、自分を助けてくれる人かどうか見極めているようなまなざし。
「…は、お前、正真正銘の馬鹿だ」
一瞬あっけに取られていた沖田君は、私に影を作っていた身体を大きくゆらし、その動きのまま大きく手を振って商品が並べられた棚にぶつけた。売り物が壊れて、床に落ちる。
「優しくなんか、ねェ」
最後に一言そう呟いて、沖田君はふらりとコンビニを去っていった。