駅をぬけてお母さんがせわしなくあたりを見回す。するとおなかが大きい女の人がこっちに駆け寄ってくる。そのことに気づいたお母さんはあたしが聞いたことも無いくらいの楽しそうな声をあげた。

「聖美ちゃん!お久しぶり、何年ぶりかしら」
「久しぶり!お互い老けたわねえ」
「本当に、ほら、名前、ちゃんと挨拶しなさい」

お母さんの後ろに隠れていたあたしは急に話を振られたことに驚き、ビクビクしながらお母さんの前に進み出た。お母さんの親友の、聖美さんという人のななめ後ろには目つきが鋭い片方の目が前髪で隠れている男の子が居た。

「…名前です」

そういうと聖美さんはにっこりわらって「大きくなったわねえ」とあたしの頭を撫でた。知らない人に頭を撫でられているのに、不思議と嫌な感じはしなかった。ふと自然をずらせば、男の子がこっちを睨んでいる。

「ほら、佳主馬もごあいさつなさい」
「…池沢佳主馬」

無愛想にそういった佳主馬くんはあたしの手を掴んで小さく揺すった。どうやら握手らしい。そのことに聖美さんは大きく目を開いた

「あら、佳主馬ったら名前ちゃんの事気に入ったみたい」
「母さん、うるさいよ」

佳主馬くんが聖美さんを適当にあしらう。お母さん達はうれしそうに笑って、二人で話をし始めた。あたしの手は佳主馬君に掴まれたまま。どうしたらいいのだろうと佳主馬君のほうを見ると、なぜかあたしのことをじっと見ている。

「これからよろしく」
「あ、う、うん。よろしくね」

  
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