みんなの心が泣いていた。風鈴の音が、まるで陣内家を慰めるように静かになっているだけで、他に何一つ音はしなかった。物憂げな夏休みの午前中。そんな時間を切り取ったような場所で、みんなが座り込んで俯いて、1人の人の死を悲しんでいた。健二さんも、夏希さんも、佳主馬くんも、もちろん私だってそう。聖美さんと背中を合わせるように座る佳主馬くんに、私は何故か近づけなかった。近づいちゃいけないような気さえした。余裕がない。OZの混乱、ラブマシーン、侘助さん、おばあちゃん。じわじわと滲む涙が、よりいっそう私の頭の中をぼやけさせて、不鮮明にして、なにも解らなくさせる。凄く悲しくてもどかしくて、そんな辛い状態がもうずっと、正確な時間はわからないけど、私には永遠に思えるくらいの時間続いていた。苦しい。

健二さんの横に立って、でも健二さんの手を握ることはできなかった。今人の体温に触れたら、泣いてしまいそうだったから。私なんかが、陣内家の悲しみを共有する事は許されないような気がした。

帰りたい。お母さんが居なくてもお留守番なんてずっとして来たんだから、今年だってずっと家で静かに過ごして、退屈な夏休みを過ごした方がずっとよかった。帰りたい。侘助さんのことも、何もかも投げ出したい。こんな苦しい思いしていたくない。

おまえさんだから、

おばあちゃんの力強く優しい声が脳内に響き渡る。それは人肌よりも熱く潤っていて、私の涙を引きずりだすのには十分だった。その場にうずくまって、涙を隠す。ひたひたと静かな足音がして、健二さんが何処かに行ってしまったのだと解った。むしろ、そのほうがありがたかった。1人で、静かに泣きたい。

「止めて」

夏希さんの、綺麗な声

「ここ握って」

だんだん醜く震えていく

「零れちゃう」

夏希先輩は素敵な人だ。すごく羨ましい。明るくて誰とでも仲良くできるし、容姿端麗、陣内家の人の話を聞けば、スポーツも凄く上手なようだ。だけど、私が一番羨ましく思うのは、こんな時に、綺麗に人を頼れるところ。思わず助けたくなるような、綺麗な涙を流せるところ。私の涙は、どうして罪悪感でいっぱいのような気がした。

  
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