佳主馬くんのそんな顔もう見ていたくなくて、掴まれている腕と反対の方の手で佳主馬くんの手を取った。効果があったのか解らないけど、少しでもあって欲しいとつよく思った。

「俺が開発した、ハッキングAIだ」

侘助さんも侘助さんで、どんどん自分を追い込んでいく。もうやけになってしまったのだろうか。侘助さんには、この家に最も強い味方がいるのに。この家の人と仲良くなるのを諦めてしまったんだ。私はまだお母さんとお父さんに頼らないと生きていけないような子どもだけど、きっと家族を心底きらいになったりなんてできないんだろう。それは侘助さんも同じ筈なのに。そしておばあちゃんも、侘助さんのことを心から愛しているのに。ひとりでからまわっていく侘助さんが、私には凄く悲しく見えた。

「俺がやったことはただひとつ」

機会に物を知りたいという本能――"知識欲"を与えただけだ。そしたらあちらの国の軍人がやってきて、実証実験次第では高く買うって言うじゃないか。まさかOZを使った実験とは思わなかったけどな。

「実験…?」

やめて、ちいさな、声にもなっていないような声で、口からことばが漏れた。それでも侘助さんは喋り続ける。おばあちゃんでさえ、何も言わなかった。

「だが結果は良好。奴は本能の赴くままアカウントを奪い続ける。世界中の情報と権利を蓄え続けるんだ。今や奴はたった一体で、何百万の軍隊と同じだ。
"止められない"ってのはそういうこと。もう手遅れなんだよ」

おばあちゃん。侘助さんを止めて。お願い。お願いだから。もう侘助さんをひとりにしないで。自分じゃ何もできない私は、侘助さんと対面したおばあちゃんを見つめた。皆さんの前で、侘助さんが何を言おうともう手遅れなのかもしれない。だけど、おばあちゃんならなんとかできる。おばあちゃんにしか、できない。我侭な私の勝手な希望としては、おばあちゃんにはなるべく優しい言葉で侘助さんを諭してほしかった。だけど、現実はそう甘くない。甘いのは、私の脳内だけだった。おばあちゃんが薙刀を大きく振りかぶる。迫力のある動きで侘助さんに凄んで、一言こう言った。

「侘助、今ここで死ね!」

目の前が真っ暗になった。

  
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