寝不足で重い瞼をこすって家を出た。ご飯がなくならないように家のハムスターに袋いっぱいの餌を与えて家を出た。去年の兎の二の舞にはできない。お母さんは別にそんなコト気にしてないみたいにさっと家を出た。あたしの腕を掴んでずんずん進んでいく。あたしが振り返ろうとしても、前を向いていないとあまりのはやさに転んでしまいそうでそれができない。お母さんのスーツケースにあたしのリュック。近所の人たちは、これからあたしとお母さんが一緒に旅行に行くと思っているのか微笑ましい光景をみるような目であたしたちを見ている。違う、違うのに。早くも家に帰りたくて仕方の無いあたしを尻目にお母さんはどんどん駅に向かっていく。腕を引かれて券を買って、改札をくぐる。どうやらお母さんが仕事で行く場所は名古屋のもっと向こうにあるらしく、名古屋駅まではあたしとお母さんは一緒らしい。そのことに少し安心しながら、あたしは電車の固いイスに座った。

「名前、ちゃんといい子にするのよ」
「うん」
「お手伝いもしてね」
「うん」
「名前は少し大人しいから、無愛想に見えてしまうかもしれないから、ちゃんと笑顔でお話するのよ」
「わかっ、た」

早口で話すお母さんは、仕事をするときのお母さんだった。あたしはこのお母さんが好きじゃない。学校の先生みたいで、恐い。電車のモニターにはOZ内で有名なキング・カズマがまた新記録を叩き出したというニュースがカッコよく宣伝されていて、最後に「誰の挑戦でもうける!」というフレーズが大きく出された。カッコイイ、なあ。あたしにもキングのような勇気があったら、といつも思う。きっとキングを操ってる人は強くてカッコイイひとなんだろう。キングはあたしの密かなヒーローだった。

えー、次は、名古屋、名古屋ァ

駅員さんの放送がもうすぐ名古屋に着くということを告げる。名古屋に着かないで欲しい、と考えれば考えるほど電車は名古屋に近づいていく。とうとうあたしはお弁当に手をつけられないまま、名古屋駅に付いてしまった。一気に緊張状態になるあたし。

「ほら、ついたから、早く」
「う、うん」

いつの間にかお母さんはあたしのお母さんに戻っていた。きっとお母さんの親友に会うから、すこしわくわくしているんだと思う。理由がなんであれ、お母さんの気分が穏やかである事に越した事はない。あたしは内心ホッと一息つきながら改札を抜けた。

  
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