侘助さんは、縁側に座って鉢植えに植わっていなくて畑の方に植えられている朝顔を眺めていた。あたしが床の木を踏む音で静かにこっちを向いた侘び助さんは、昨日のおどけた様子なんて微塵も感じさせない雰囲気を纏っていた。お互い何も言わない。あたしは静かに拳を握って、おばあちゃんの言葉を思い出した。

「侘助さん、」
「…なんだよ」
「あたし、」

あたしはゆっくり、ここに来るまでの話をした。自分に自信がないこと、なかなか両親と一緒にいられないこと、その関係でここまできたこと、ここには優しくてかっこいいひとがたくさんいること。侘助さんは意味が分からないといった表情であたしを見た。逃げたい。でも、だめだ。

「…だから、その。要するに、聞かせて欲しいんです」
「何を」
「侘助さんが、ここに"帰ってきた"、理由」

侘び助さんがカッと目を見開いた。そして暫く沈黙して、立ったままだったあたしに隣に座るように促した。なんとなく、おばあちゃんがあたしにこの役を任せた理由がわかる気がする。
あたしと侘助さんは似ている。なんとなく。きっとおばあちゃんもそう感じたんだと思う。侘助さんは、ほんとうはすごく寂しいのにそれを隠してる。おばあちゃんはそう言っていた。「侘助の気持ちを一番わかってやれるのはおまえさんなんだ」というおばあちゃんの言葉が再び脳内で再生される。お母さんが家に居なくて、ひとりで寂しくて、侘助さんは親戚の人に白い目でみられて、おばあちゃんしか頼る人がいなかったんだ。そのつらさが痛いほどわかって、目頭が熱くなった。

「お前…名前っつったか」
「はい、」
「名前、好きだろ。佳主馬のこと」
「っ!?」

顔が急に熱くなった。急になに言ってるの、この人

「そ、そんなこと…!」

反論しようとしたら、侘助さんが立ち上がった。昨日みたいな笑みを浮かべている。

「もうすぐ行くみたいだぜ、お前も行ったほうがいいんじゃねえの」
「え?」
「俺ァ昔からこの家にいるから、わかるんだよ」

そういって侘助さんは、1回廊下の向こうを見てどこかへ行ってしまった。あたしは頭にクエスチョンマークを浮かべながら侘助さんが見たほうを振り返ると、ここからはちょうど玄関が見えて、夏希さんと理一さんが見えた。どこかへ行くらしい。耳を澄ますと、「健二くん」という言葉が聞えて、あたしは迷わず玄関に向かった。


  
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