それからいろんなことがあって、あたしはようやくお兄さんはお姉さんの婚約者で大学生だという事を知った。健二さんと言うらしい。お互い引っ込み思案なのか妙に波長が合うあたし達は一緒に人通りのない廊下を歩いていた。
「どうして付いてくるの」
「…だって、」
どこに行けばいいか解らない。夏希さんに手を引かれて来たせいで佳主馬くんの居る納戸の場所がわからないし、陣内家の皆さんは皆忙しそうだ。そのことをぼそぼそと告げると健二さんはふんわり笑った。
「じゃあ、仕方ないね」
「…うん」
すると突然お兄さんのケータイが鳴って、お兄さんは目を丸くしてあたしを見た。「電話してくるからここで待ってて」「うん」という短い言葉を交わしてあたしは縁側のような長い廊下に腰掛けた。遠くで健二さんの勢いのある声が聞えてきて、友達の人かな。友達の前だと元気いいんだな。とぼんやり思った。すると、たしかハヤテと言う犬がワンワンと吠えた。健二さんもその方をじっと見ていて、気になったあたしは裸足で健二さんの元に向かった。健二さん、いや佳主馬くんを除く家族全員がひとりの男の人を見ている。
「いらねぇよ飯なんか」
陣内家の人はみんなしんと静かで、なんだか恐くなったあたしは健二さんの後ろに隠れるように身を動かした。そっと健二さんの手に手を伸ばすと握ってくれたので、安心する。
「どうしたの、健二くん?」
そこに、きっとお風呂上りなんだろう、妙に艶っぽい夏希さんがちびっこを連れてやってきた。ちびっこたちは好き勝手に男の人に群がっていく。そしてそれをお母さんたちが制した。
「…おじさん?侘助おじさん?
うれしい!帰ってきたのね!」
あんまり好印象とはいえないその男の人に、夏希さんは勢いよく抱きついた。
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