あっという間だった。山崎くんがパン食い競争であんぱんを凄まじい形相で入手するのも総悟が競技のひとつとしてぐるぐるバットをしたあと平均台を渡ったりなんていう醜態を晒すのも高杉が珍しく大声で応援したり銀ちゃんがいつになく張り切って先生100メートル走で見事1位を飾ったりするのは、本当にあっというまの出来事だった。もう、代表の最後のあいさつで、あたしは全校生徒の視線を浴びて、何かを言わなくてはいけないわけで、あたまがまっ白なわけで。

「体育祭…」

ぽつり、と呟くように出てきた声はマイクを通して皆に伝わる。

「体育祭が、終ってしまって、わたしは、いままで頑張ってきたことが全部なくなってしまったような、そんな気分です」

女子生徒や応援係のすすり泣きが僅かに聞える。鼻がつんとして、マイク越しに聞える自分の声も震えてることに気づいた。

「みんな一生懸命がんばってくれたし、後悔なんて、これっぽっちもしてません」

ちら、と3Zの皆が座ってる方に視線を向けると、とうとう涙がこぼれてしまった。

「すっごくたのしくて、すっごくさいこうな、たいいくさい、でした」

じわりとにじむ涙で、土方や高杉のかおが歪む。はは、アホヅラ

「アタシ達もすっごく楽しかったアル!」

はっと顔をあげると、神楽ちゃんがニカっと笑ってるのが見えて、ぱちぱちとまばらな拍手がやがて大歓声に変わる。

「銀校サイコー!」
「今までで一番いい体育祭だったあ!」

とうとう耐え切れなくなって、その場にしゃがむと肩に武骨な手が乗せられて、その手が銀ちゃんの手だってことは飴のにおいですぐにわかった。

「たいへんよくがんばりました」