佳主馬に促されて入ったドアの向こうに見えたのは白を基調とした特になにもない玄関だった。促されるまま靴を抜いですぐにあったドアを開くと、同じく白を基調としたセンスの良い部屋があった。センスが良いと言っても住みやすいように作られているので人間臭さのある部屋だった。どうやらここがリビングらしい。そしてトイレ、お風呂、佳主馬の寝室、台所と順番に案内されて、最後に絶景のベランダを見せられて案内は終った。他にドアなどは見当たらない。何か足りない。絶対何か足りない。

「ねえ、」
「ん?」
「私の部屋は」
「ないよ」
「…え?」
「ここ1LKだし」
「じゃあ私、どこで寝るの?」
「俺の部屋でしょ?」

さも当り前のように言う佳主馬の足をとりあえず踏んづけた。変態と同じ部屋で寝るなんてあり得ない。私の貞操が危ない!いや、もう貞操なんてないけれども。

「リビングで寝かせていただきます」
「無理」
「え、なんで」
「夜仕事あるし」

佳主馬の話を聞くとどうやらOMC関係の仕事の打ち合わせは大抵夜で、それ関連の資料がしまってあるのがリビングらしい。確かに言われて見ればインテリアの一部のように自然に分厚い本やファイルが棚に置いてある。つまり要約するとあたしは夜はリビングに行けないらしい。まさかこの家の家賃を払っていらっしゃる佳主馬にリビングに寝ろなんて事は言えるはずもない。結果的にあたしは佳主馬の寝室で寝る事になる。

「布団1つしかないから」
「いや、それはあたしのがあるから…」
「無理、入れない」

佳主馬の言葉より先に、あたしは布団がここに来ないことを思い出した。だって朝起きたときにあたし布団で寝てたじゃない。朝起きた時にはもう必要なものは送ってしまったらしいから布団は家に置き去りにされたままだ。

「………」
「ま、郷に入っては郷に従えって言うじゃん」
「なんか違う…」

夜の不安を一心に抱えたまま佳主馬にツッコミとも言えないようなツッコミをするとインターホンが鳴った。パタパタと佳主馬が玄関に歩いていく。あ、佳主馬スリッパはいてる。いいなあ



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