「もしもし、母さん?」

いない。本当に、どこにもいない。マンションにもマンションの近くにも居ない。途方に暮れてしまった。自分の不注意だ。最近メンテナンスなんてめっきりしてなかったから忘れていたんだ。本当はしたくなかったけど、これ以上探し回っても拉埒があかない。母親に電話をすることにした。もしかしたら母さん経由で名前のお母さんなら名前と連絡が取れるかもしれない。親ふたりに心配と迷惑を掛けてしまうのはもうしかたない。案の定はじめは俺が自ら親に電話をするのを疑問に思っていた母さんも用件を告げれば「じゃあ急いで聞いてみるからね」と真面目な声音で言い、いつもは俺が電源を切るのを待ってる癖に急いで自ら切ったりしていた。ケータイを閉じてから、本当に連絡してしまってよかったのだろうかと思ってしまう。折角二人暮らしできているのに、その生活に問題が発生してしまうのが悲しかったし、それを親に知られればこの生活が終ってしまうかもしれない。そんなのは嫌だ。これからはもっとちゃんとしよう。なんとかそう自分を持ち直して、母さんからの電話を待つ。すると1分もしないうちにケータイが鳴った。

「名前ちゃん、本当に道に迷っちゃってるみたい。電話の声も寒さで震えてたって。これからケータイの番号言うから、あとは佳主馬でなんとかしなさい。わかった?」
「うん」

母さんの声は真剣そのものだったけど、僕を怒ったり責めたりなんてことはしなかった。ただ、責任を持ちなさいと言われている。真面目に返事をして、番号をメモに走り書きした。

「じゃあ、早く迎えに行ってあげなさいよ」
「うん。ありがとう」

電話を切る頃には僕はもう家から出ていた。


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