駅員さんに改札の場所を聞いて「桜通口ですか?太閤通ですか?」とか聞かれてわかんないです…と言うと駅員さんは困ったように笑った。さっきのキングカズマ宛に「改札どっち?」とメールを送ると「じゃあ桜通口で」返事が返ってきた。そしてやっと駅員さんに場所を教えてもらったのに一人ではたどり着くことが出来なかった。なので今度は別の駅員さんに案内してもらってやっと改札を抜けることができた。我ながらこの方向オンチは直さないとそのうち大事件になったりしそうで怖い。
改札を抜けて適当な位置に立ち尽くす。えっと、ここで待ってればきっと向こうが見つけてくれるだろう。まあ、何の目印も伝えてないけど。
あたりを見回すと佳主馬らしい人影はみあたらない。って言ってもここ数年会ってないから佳主馬がどんなふうに成長したのか全然知らない。どうしようかと戸惑っていると、日に焼けた背の高い人がこっちに近づいてきた。片方の目は髪に隠れてしまっている。も、もしかして…
「…名前?」
「え、佳主馬?」
どうやら佳主馬らしいその人は細い体は相変らずだけど、かなり美青年に成長していた。佳主馬もなんだかびっくりしたような顔をしている。…私そんなに変かな?前あった時は身長は同じくらいだったのに今ではあたしが完全に見上げている。じーっと見つめていると佳主馬はバツが悪そうにそっぽを向いた。相変わらず可愛くない
「とりあえず俺んちまで案内するから」
「あ、うん」
「そしたら荷解きするの、手伝う」
「ありがとう」
そう言ってあたしのスーツケースを奪うと、先に歩き始めてしまった。あわてて追いかけて隣に並ぶ。
ぶっきらぼうだけどなかなか紳士的かもしれない。これであの癖が治ってれば…。
「あ、そういえば名前」
「ん?」
「俺、いつ手ぇ出すか解んないけど、宜しく」
とてつもなく久しぶりに見た佳主馬の笑顔に、ああやっぱり佳主馬なんだなあと実感した。やっぱり佳主馬はいくつになっても変態だよなあ…。治ってるわけ、ないよなあ。
「…よろしくしたくない」
思わず歩く速度を落とすとぎゅうっと手を握られた。どうやら拒否権はないらしい。
「よろしく」
「よ、よろしく」
同居生活が始まった。
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