寒い。きっと今は朝だ。さらさらで暖かい布団をたぐり寄せる。肌から離れていたその布団はとても暖かくて、その温もりが恋しくてぐりぐりと顔をこすりつける。そうするとぎゅっとだきしめられて、少し息が苦しくなった。

「ん…?」
「…おはよう」

布団があたしを抱きしめる訳がない。恐る恐る目を開けてみると、視界いっぱいに意地悪な笑い方をした佳主馬が映った。逃げようにも、佳主馬にしっかりホールド(だ、抱きしめられているなんて思いたくない)されているので身動きひとつできやしない。口をぱくぱく動かしてまるで馬鹿な魚みたいに佳主馬を見るけど、相変らず佳主馬はあたしを見てにやにや笑うだけだ。

「は、離して」
「なんで」

なんで、離してもらうには理由が必要なのか。離して欲しいから、なんて言っても絶対離れてくれないに決まってる。うーんと頭を捻ると「考えるくらいなら離す必要もないでしょ」と反論しにくいとこを突いてきてあたしはまた何も言えなくなる。

「あ!」
「え?」
「学校!遅刻しちゃうよ」

佳主馬の二の腕と腰の間からなんとか腕をねじ込ませて時計を指差す。時刻はきのう家を出た時間の30分前。そろそろ準備しないといけないんじゃないだろうか。「大丈夫」だけどその期待を佳主馬が見事に打ち破る。「昨日は名前が初登校だったから、早めに出でただけだから」…そうきたか。佳主馬はこれでもう文句ないでしょとでも言いたげに勝ち誇った視線をあたしに送ってくる。く、くそう…!

「はー、やわらか」
「変態」

佳主馬はちっとも動じない。今朝もあたしの完敗である。


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