あたしのお母さんは仕事命のバリバリのキャリアウーマンだ。いつでも休み返上で、家に居る時間帯はだいたいあたしが学校に行ってる時か、もう寝ている夜中だ。だから学校で家族についての作文を書くときとか、家族の話題が出た時すごく困ったし、なかなか時間をとれない両親をうらんだりもした。それに、お母さんはあたしのことなんかちっとも見てないくせに勉強しろとか、いい子にしろとか、大人ってずるい。あたしもはやく大人になりたい。心のなかで強くそう思っても、臆病でまだ子どもだったあたしにはその気持ちを外にだすことができなかった。
そんな中で、ある運命的な夏がやってきた。夏休みは好きだ。早く宿題を終らせてしまえば、お母さんに会える確率が増える。7月中に宿題を終わらせることができれば、お昼に帰ってきて眠そうな顔をしたお母さんはえらいわねと言って頭をなでてくれた。だからわたしは夏休み、ずっと家にいるつもりだった。だけど、その年はお母さんはいつも以上に忙しく、家になかなか帰れないという。だから、わたしを夏休みの間、お母さんの親友の家に預けるって言った。うちには親戚が居ない。おじいちゃんとおばあちゃんは、お母さんがあたし位のときに死んでしまったらしい。あたしは不安でいっぱいだった。お母さんに嫌われたんじゃないだろうかとか、知らない人とずっと一緒に居なくちゃいけないこととか。あたしは夏休みがきらいになった。

「…これからよろしく」

そんなときに会ったのが佳主馬だった。あの頃はすごくぶっきらぼうな男の子だった。でも、少なくとも佳主馬はあたしを救ってくれた。お母さんとあたしの関係を再構築してくれた。もう何年も会っていなくて、本当は忘れちゃいけないはずだった佳主馬を、あたしはずっと忘れていた。きっと、お母さんは、佳主馬だからわたしをここに送ったんだ。

あたしだけがあの奇跡みたいな時間を、


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