カレーはちっとも辛くなんかなくて、それどころか凄く美味しくておかわりまでしてしまった。佳主馬はその様子を楽しそうに見てるし。食べ終わったあたし達は二人並んで食器を洗って、ランチョンマットを片付けたテーブルに座った。冷房がよく効いているおかげなのか、ふわふわのカーペットがきもちいい。ぶーちゃんを抱きしめてテレビが見える佳主馬の隣に移動。麦茶を取ろうと手を伸ばすと佳主馬のタンクトップから伸びた素肌に触れた。

「あ、ごめん」
「ううん、佳主馬ってさ、タンクトップで寒くない?」
「え?別に」
「あたし半袖でもちょっと寒いよ」
「そう?」
「うん」

そう言うと佳主馬はおもむろに立ち上がり、寝室に姿を消した。どうしたんだろうと寝室の方を見ていたら、最近人気の芸人のコントのオチを見逃してしまった。真黒なカーペットに手を埋める。ふわふわ、でもあったかくない。ちょっと冷たい。

「はい」
「!」
「これ、かけてなよ」
「あ、ありがとう」

ふわり、と効果音がつきそうな具合にあたしの肩にかかってきたのはやっぱりモノクロ調のブランケット。肌触りがよくて大きめのそれはあたしの体をすっぽりと包み込んでしまった。

「寒くないでしょ?」
「うん、ありがとう」
「…別に、」

佳主馬がそっけなくかえす。そのことに小さく笑ってまた麦茶を飲む。隣同士においてあるコップ。あれ、あたしのどっちだろう。佳主馬にばれないように迷っていると右側のコップを佳主馬が掴んで飲んでしまった。じゃあ、あたしは左側だったのかな。麦茶を飲むと冷たいものがおなかの方に落ちていって、ぶるりと身震いした。

「カルピス飲みたい」
「カルピスは一日一杯ね」
「えー」
「えーじゃない」

佳主馬があたしのブランケットに体をぴっとりくっつけて、はーと溜息をつく。

「あったかい」
「そうでしょ」
「名前、」
「え?」
「あったかい」

佳主馬らしさの欠片もない行為にあたしはふっと笑った。なんか意識が朦朧とする…あー、眠いな、まだ10時だけど、今日疲れたもんな、おなかいっぱいだし、お風呂は明日の朝入ろう…。いいかな、いいよね…。おかあさん明日もどうせいないし、

「どうしたの」
「う…眠い…」
「寝ようか、」

ぽん、と頭に手を置かれたのを皮切りにあたしは静かに寝息を立て始めた。ちょっとだけ、幼い頃のことを思い出しながら。


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