「買い物がてら、この辺を案内しようと思ったんだ」
「…あたし方向オンチだからどうせ迷子になっちゃうよ」
「じゃあ買い物行くときは、一緒に行かなきゃだね」
「…そうだね」

マンションを出て外を歩くとそこは見慣れないものばかりであたしはあたりを見回した。横を歩く佳主馬があたしを見て笑った。別に嫌な笑い方じゃなくて、ふ、と空気を震わせるような笑い方。佳主馬らしくないような軟らかい笑い方だった。それは親が子どもに見せる表情に似ている気がする。なんだか悔しい。嫌な笑い方じゃなかったのに、悔しい。

「そういえば、佳主馬さあ」
「何」

表情は一変。いつもの不機嫌そうな表情に戻る。あっという間のことだった。勿体無い。あんな表情滅多に見られないんだから、もうちょっと見とけばよかった。

「丸くなったよね」
「は?何、太った?」
「いや、そういうことでなくて」

どう言えばいいんだろう。カルピス持ってきてくれたり、布団掛けてくれたり、さっきみたいに笑ったり…。明らかに中学の頃会った佳主馬とは違う。角がとれた感じ。数年前だったらカルピスなんて持ってこないし、むしろ「勝手に作れば」とか言ってさっさとOZとかはじめそうだし。布団なんて絶対かけないし「風邪引いても別に関係ないし」とか言って!あーなんかいらついてきた。でもそういうことができるようになったってことは、

「…優しくなった」

ってことだよね。多分。うん、きっとそうだ。言ってしまってから無性に恥ずかしくなる。当の佳主馬はきょとんとした顔をしていた。え、一体どういうこと。あたしそんなに変なこと言ったのかな。

「……へえ」
「…うん」

さっきの表情とは一変。佳主馬は相変らずの余裕そうな笑みを洩らした。こういうところは変わってないみたいだ。なんでも自分の有利な方に進めようとする。そりゃそうだけども、佳主馬はそういうことが病的にうまい。さっきまであたしが話を進める感じだたのに、今はもう完全に佳主馬の言葉を待つ状態だ。

「ねえ、」
「え?」
「なんかこれって、デートみたいだよね」
「!!」

急に何を、そう言葉にする前に手を繋がれる。これこそ急に何を、だ。いきなり手をつないで来るなんて、デートじゃあるまいし…。あ、そういうこと。佳主馬の手はひんやりと冷たい。何故か拒否する気にもなれなくて、手を繋ぎ返す。すると佳主馬はまたきょとんとした顔をする。いや、これはきょとんとしてるんじゃなくて、目を丸くしてる

「嫌がらないんだ?」
「嫌がる理由が無い」
「名前じゃないみたい」
「なに、そ、れ」
「だって、恥しがり屋じゃん。名前って」

じわじわと顔が熱くなってくる。な、んであたし…手握り返してんの。どうして今更。嫌じゃない。嫌じゃないけど恥ずかしい。あたしと佳主馬はただのルームメイトであって、同棲してる恋人同士とかそういうのではない。断じて。

「…離して」
「やだ」

ああ、これはもうダメだ。相変らず顔が熱い。熱を冷ますように空いている手を頬に当てる。やっぱりあつい。あついことがもう恥ずかしい。佳主馬がこっち見てるのが解る。どうしてこんな風に成長してしまったんだ。身長も伸びたし、顔も大人っぽくなった。だけど根本が変わってないって言うか…恥じらいが無くなったんだな。うん。

「まずどこ行こうか」
「あ、スリッパ買いたい…です」
「恥ずかしがってんの?」
「ち、違う!」

また佳主馬が笑う。やっぱり嫌な笑い方じゃない



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