おばさんに教えてもらったアカウント宛てにメールを送った。必要なことだけを書いてメールを送信したころの俺は、まだなんにもわかっちゃいなかった。恐らく名前が乗っているであろう電車の時刻表を見て家を出た。桜通口のあたりでうろついていたら名前から随分遅い返信が。俺はそれにさらに返信をして、ついでにスポンサーからのメールをケータイでチェックすることにした。駅のすぐそこにある大きなビルのモニターにはキング・カズマが大きく写っている。はじめのころは軽く感動していたそれも、今ではあたりまえの光景だ。ここにキングカズマを知っている人はいても俺を知っている人はいない。パチンとケータイを閉じてそろそろ来たかとあたりを見回すと、ワンピースから白い足をのぞかせた女性が目に映った。まさか、と思い近づいてみる。彼女も俺に気づいたみたいだ。

「…名前?」
「え、佳主馬?」

久しぶりにあった名前は、凄く綺麗になっていた。すらっとした身のこなしとか、細いのに柔らかそうな肌とか。数年前とは比べ物にならない位の名前の成長に、頭がついていかなかった。何を考えてるのかはいまいちよくわかんなかったけど、こっちをじっと見ているからきっと驚いているのだろう。俺は最後に名前に会った年から急に身長が伸び始めて、クラスで一番身長が高くなった。いい加減名前の視線が恥ずかしくなってきて、後ろ頭をかきむしる。


「あ、そういえば名前」
「ん?」
「俺、いつ手ぇ出すか解んないけど、宜しく」

精一杯見せた余裕だった。余裕なんてないくせに。この言葉に名前は顔をまっ赤にする。その顔がいけないことを名前は気づいていないのか。恥ずかしくなった俺はひたすら早足に歩いていく。後ろについてくる名前は、マンションについてからは一つ一つのことに大きく反応していて、見ているのがおもしろかった。そのまま部屋の中を案内。体は妙に大人っぽいくせに、反応とか態度が変わってなくてガラにもなく嬉しかった。

「じゃあ私、どこで寝るの?」
「俺の部屋でしょ?」

そこから、いろんな理由をかこつけて俺の部屋に寝かせることにした。せっかく久しぶりに会えたんだ。少しでも密着していたい。俺の適当にかけつけた理由にも納得したようだった。本当はあの資料とか、いつでも移動できるし、寝室で仕事する時だってあった。なんでここまでするのかは俺でもよく解らない。それから、荷物が届いて荷解きを手伝って、時間はあっという間に過ぎていった。名前の一つ一つの反応がおもしろい。一人暮らしも充実してたけど、こんなルームメイトがいるならそれもいい。

「カルピス飲む?」
「飲む!」

たまたまあったカルピス…この前妹が来た時もってきたやつを名前にあげると凄く嬉しそうな顔をする。カルピスを渡すと、白い首がごくごくとそれを飲んでいる。ぎこちなく隣に座ってみた。ら、いい匂いがした。だからかもしれない。俺は名前の腕を掴んだ。予想通り細くて軟らかい腕だった。名前が顔を顰めながら俺の名を呼ぶ。綺麗な声、もっと呼んで欲しい。だけど俺はまた口を開き俺の名前を呼ぼうとすする口に口付ける。甘い。カルピスの味がする。

「ちょっ、佳主馬!」
「逢いたかった…ずっと」
「え?」

うっかり溢してしまった本音や、恥ずかしさやその他いろいろなものが一気に俺の頭の中を埋め尽くして、俺は力なくベットに倒れた。名前は何も言わない。いくら待っても名前は一向に喋らない。俺は恐くなった。嫌われたんじゃないかと。そりゃそうだ、今更だし自業自得だけど、名前に嫌われるのは嫌だった。それからどれくらいの時間がたっただろうか。気まずくなってしまって、そっと右腕を離す。だけど隣からなんの反応もない。ゆっくりゆっくり顔をあげて名前の様子を伺うと、なんと寝ていた。座ったまま首を傾けて静かな寝息を立てている。おれはそれにおどろいて、呆気にとられた。こんないきなりキスした相手の前で寝るなんて、よっぽど疲れていたのか、それとも。起こさないようにゆっくりとベットに寝かせ、普段あまり使わないタオルケットをかけてやる。暫くその寝顔を眺めた後、俺は寝室を後にした。名前が起きたら、なにも無かったように振舞おう。きっと名前も何も言わないでいてくれるはず。先ほど溢してしまった本音を、ちゃんとした形で名前に伝えるのはもっと後になってからでいい。



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