ずっと掴まれた手は離れなくて、長旅の疲れもあってかあれからあたしは寝てしまった。どれくらい寝たのかは解らないけど、起きたらあたしの腕は開放されていたし、隣に佳主馬は居なかった。思い出すだけで恥ずかしくなってくる。佳主馬は、どうしてあんなことしたんだろうか。しかも最後に呟いた言葉は小さすぎて聞き取れなかったし。暫く頭を抱えて悩んでいたら、佳主馬のベットに寝ていることに気が付いた。そりゃそうなのだけど、ちゃんと布団まで掛けられてちゃんと寝てるあたり、佳主馬がここに寝かせてくれたらしい。恥ずかしいったらなかった。そっと布団から抜け出して、かかっていたタオルケットをたたんで枕元に置いた。そこでふう、と一息つく。おちついて、おちついて。佳主馬がああいう性格なのは、分かりきっていたことだし、佳主馬にとってアレは別になんでもないことだったのかも。じゃあなんで、ベットに倒れこんだりしたんだろう。ベットの中の暖かさはあたしの体温からくるものだったけど、そっとベットを撫でてみた。さっと恥ずかしさが広がる。な、なにしてんだ。あたし

「あ、起きた?」
「かずま、」

顔が赤いかもしれない。どうしよう、恥ずかしい。リビングから顔を覗かせた佳主馬はさっきとは違う服を着ていた。ケータイと財布を持っていて、これからどこかに出かけるというような格好だ。どこに行く気なんだろう。

「これから、名前に必要なものとか買いに行こうと思ってたんだけど、いい?」
「あ、うん」
「あと、さっきケータイ鳴ってたよ」

そう言って佳主馬はまたサッとリビングの方へ姿を消した。スーツケースに入っていたケータイと、外出用の小さな鞄を取り出す。服は…このままでいいや。でも髪は寝てぐしゃぐしゃになってるだろうから直そう。片手で寝癖直しをさらに引っ張り出して、片手でケータイを開いた。お母さんのアバターからのメールで、溜息を吐く。「スーツケースの中にあんたの通帳いれといたから、佳主馬君に迷惑かけないように使いなさいね」母らしいアバターがメールを読み上げる。あたしは自分のアバターに「ありがとう。仕事がんばってね」というメールを持たせて旅立たせた。遠い距離があるのにこんなに簡単に連絡をとれるのは今更ながら凄いことだと思う。こんな凄いサービスの中、佳主馬はそのサービスのジャンルの一つの世界一なんだもんな。そんなに凄い人なんだから、やっぱりあの程度のスキンシップはなんでもないのかも。そう無理やり自分に言い聞かせて立ち上がった。寝坊して時間が無い時のために見につけた片手寝癖直しが今役に立ったなあ。リビングに出ると、既に佳主馬は準備万端で「じゃあ行こうか」と言った。その声はさっきまでとなんにも変わってなかったから、やっぱりそうだったんだ。と自分に念を押し、玄関を出た。



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