あたしは、真選組の屯所の前に立っていた。家に電話が無いからだ。
今まで屯所に入ったことなんか無い。
なんとなく踏ん切りがつかなくて、屯所の前でうろうろするばかり。

「おい」

低い声がして、振り返るとそこにいたのは副長さんだった。
どこに行って来たのだろうか。片手に煙草を持っている。

「どうかしたのか」

少し驚いた。
うちに真選組の人が来たときはずっと敬語だったのに
少し心配そうにこちらを見る目は、仕事云々などではないようだった。
完全にこれは土方さんという人間だ。副長としての会話じゃない。
そういえば隊服ではなく青黒い着流しを着ている。

「あの、家に何もないんです」
「そんくらい解ってる」
「電話も、着替えも、お金も。」

そういうと副長さんは目を丸くした。
失礼な。こちらとしては重要な問題なのだ。
お金が無くては、今晩の夕食も入手できないのだ。あたしは仕事に財布を持っていかない。
それは、お金を持っていけばだらしのない上司に全て巻き上げられてしまうから

「今までどうしてたんだ」
「上司の家に居たんですけど、
これ以上お邪魔するのは迷惑かと」

何せ我社にはお金が無い。
急に給料を出してくれるような余裕もないのだ。

「…解った。とりあえず入れ」
「……はい」

夕暮れの時間
屯所の門を抜ける時に浴びた風はひんやりと冷たかった。


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