ばたばたと騒がしい。静かにして欲しい。静かにしてないと、梢が安心して眠れないじゃないか。…いや違う。俺は梢に起きて欲しいんだ。だってそこにある真白なベットで眠る梢は死んだみたいに顔が白いし、なんだかうなされてるみたいだ。額にはじっとりと汗をかいていて、とても安眠しているようには見えない。おまけに体中に変な管がつながれている。このまっしろなベットがある部屋はほとんどすべてがましろで、ついでに言えば俺の頭もまっしろだ。いや、天パとかそういうんじゃなくて

ピッピッピッ…

俺の体はだんだん冷たくなっていく。きちんと管理が行き届いていて常温である筈のこの部屋が寒い。頭がだんだん暗く、まっしろに染まっていく。なにも考えられなくなる、なにも考えたくなくなる。心がシャットダウンされていく。

「梢さんは、大変危険な状態です」

いやだ
言うな。それ以上喋るな。聞きたくない。言わないでくれ


「頼むから…っ」

「銀時くん…」

俺の斜め前で梢の母さんが目を腫らして俺を見つめている。ここに居る人間は、みんな辛い。俺や梢の両親はもちろんそうだし、梢だって今一生懸命病気と闘っている。医者や看護師だってそうだ。
俺だけなにもできてないただ俺は、梢の手を折れんばかりに握り締めて、梢が目覚めるのを待つことしか出来ない。もどかしい、
完全にシャットダウンできていない思考回路は嫌な事ばっかり考える。そんな訳ない、ある筈がない。そんな訳ないだろ。なあ、

「  ・・ん 、」

小さなうめき声が聞えた。少し枯れていて、羽虫の飛ぶような小さな声だったけれど、紛れもない梢の声だった。部屋中の視線が梢にあつまる。看護師がそっと酸素ボンベを外した。
あたりがしんと静まる。聞えるのは梢の深呼吸の音だけ

「・・ ぎ、ん」
「梢!梢…なあ、」

さっきまで俺が一方的に握り締めるだけだった手を握り返してもらえる。こんな素晴らしい事が今までの俺の人生にあっただろうか。こんな当り前のことが、こんなに儚く、奇麗に思えるのはきっと俺の短いようで長い人生のなかできっと一度きりだ。
梢は小さな声でゆっくりと喋り始めた。
心のどこかでこんな感動ドラマあったな。なんて思う。そのドラマの結末を思い浮かべて、ぱっと振り払う。この手のドラマは、大抵そうなる。これは現実だ。そんなの、認めない。

「 あたし  すごく 」
「ああ」
「 すごく たのしかった 」

もう梢は溶け始めていた。そとの明るい日差しを浴びた木々のように、光に透かされて消え始めていた。頭の中では、わかっていた。

「 だから ぎん 」

ピッ

ピッ

だんだん間隔がゆっくりになっていく。ぞくりと嫌な汗が背中を伝う。あれ、俺は寒かったんじゃないのか
もうなにがなんだとか、どうでもいい。ただ、今を否定したかった。こんなの嘘だと、ドッキリでしたと、はやくネタばらししてほしい。もう頭と心臓が潰れてしまいそうだ

「  またね 、 」



ピ―――――









ふたりのおはなし


おわり



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