校門の方を覗くと、ぞろぞろと生徒が帰っていくのが見える。いつもはあたしのあの中に混ざっているんだと思うと、なんだかちょっと複雑な気分になった。文芸部の部室からは、校門が良く見える。しかし桜の木の陰の関係で、校門からここは見えにくい。格好の観察ポイントなのだ。ふ、と視線を女子の塊に向ける。恐らく、あれは総悟のファンクラブのメンバーだろう。なにか話し合いながら、ファミレスのある方向に向かって歩いていった。これからファミレスのフリドリで何時間も御喋りを楽しんだりするのだろうか。あたしには理解できない域の話だが。彼女達をみて興味が失せたので、ぼふんと間抜けな音を立てながらボロボロのソファに掛ける。読みかけの本を手にとり、夕暮れの朱色の光りで本を読む。いつもと違うこの状況に、変に胸が高鳴った。初めてかもしれない。夕暮れの中、文芸部で本を読むのは。総悟を待っているのは別に珍しい事じゃない。でもいつもは5分か長くて10分なのでこんなに遅くなったりはしない。窓から降り注ぐ夕日が真白な本のページをほんのり朱く染めていて粋な雰囲気になっている。うすっぺらい、あまり面白いとは感じられない二流の携帯小説も、少しは見て取れるようになった気がする。別に携帯小説が嫌いなわけではないが、これを本にして売れるのかと言うのが不思議なのだ。無意味に派手な表紙や、擬音の多すぎる文面は、あまり好みではない。それでも読んでしまうのが読書家と言うものだ。その頃の有菜は、共働きで殆ど家に居る事がない両親(父に至っては泊まるためにマンションを借りているので年に数回会えばいい方)に貰う生活費の約半分を本を買うことに使っている。あとは食費や少しの生活費。基本的なものは両親が払っているので、普通の高校生にしては多い金額を有菜は自由に使っているのだ。ヴヴヴ、携帯のバイブレーションが鳴った。恐らく総悟からだ。と、言うよりこの携帯に掛けてくるのは殆どが総悟だ。気だるげにスライド式の携帯を開くと総悟はそろそろ集会が終るようで、3Zの教室まで迎えに来いとのことだった。本当に総悟は我侭で困る。別に気にしてはいないのだが。殆ど中身のない鞄を事務机から引っ手繰るように手に取り、文芸部からて鍵を掛ける。そして有菜はゆっくりと歩き始めた。廊下から僅かに見える校門に、殆ど人通りはない。ラッシュは過ぎたようだった。



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