「おい、総悟、昼メシいらねぇのか」
「煩ェですぜ土方さん、俺ァもう食ってきたんで」
「あァ?」
「マボロシのエビマヨネーズサンド」
「!!」
昼休みの終わり、教室に戻ったら土方が声を掛けてきた。うぜェ。
ちなみにマボロシのエビマヨネーズサンドというのは売店のメニューにはちゃんとあるのに限定一個で、かつて誰も食べた事のない単にエビとマヨネーズを食パンに挟んだだけのサンドイッチ。
誰も食べたことがないのは恐らく、いつも昼休みの前に有菜が買っているからだろう。俺も文芸部に行くたびにあれを食べるが、凄く旨い。
特にこの土方はマヨ中毒でエビマヨサンドにかなりの興味を持っている。
「じょ、冗談だろ。」
「さあ?」
「んのやろー・・・」
ぎろり、土方が敗北の視線を投げかけてくる。俺はそれを無視して自分の席に座った。ああ、いい気味だ。
確か、5限は現国だったかな。
「おーい席つけー」
ガヤガヤと煩い教室は静まる気配がない。銀八は溜息を一つついて手持ちのジャンプを開いた。
「おい」
「え、なに」
「アイツのことなんですけど」
ジャンプに視線を囚われていた銀八の視線が俺に向かった。
「自分で言うのも難なんですけどねィ、そろそろ有菜が狙われるかもしれやせん」
「…まあ、今まで何も無かったのが不思議なくらいだもんね」
「いくらアイツが"幽霊生徒"だとしても、立派な銀高の生徒なんでさァ」
視線が交わる。この会話に気付いてる奴は居ないはずだ。強いて言うなら山崎は感づいてるかもしれないが。暫く銀八と睨み合いを続けていたら後ろに衝撃が走った。
「なあ総悟!幽霊生徒の噂って知ってるか!?」
「近藤さん…あの、部室のあたりに出没するこの高校の生徒だった幽霊のはなしだろィ?」
「そうそう!それ、なんでもその幽霊がマボロシのエビマヨネーズサンドを買ってるらしいぞ」
勿論幽霊生徒とは有菜のことだ。エビマヨサンドを買ってるのも有菜で間違いない。でも、
「有菜は幽霊じゃありやせんぜ」
そう、有菜は立派に生きている。幼馴染が幽霊なんて笑えねェ。
「え、何か言った?」
「なんでもありやせん。近藤さん」
銀八の視線が再びジャンプに落ちる。俺も近藤さんと、なんだが知ねェがビビってる土方の方に向かった。