"さっきうちに有菜が来た。お前のために、有菜、泣いてたぞ"

そう土方からメールが来た。いつも奴からメールが来る事なんてないからおかしいと思ったんだ。そういえば今日は休みなのに有菜は家に居なかった。うちにも来なかった。昨日あんなことがあって有菜がなんとも思うはずがない。有菜はきっと深く傷ついたんじゃないだろうか。ああ、こうなることなんて、いくらでも予測できたじゃないか。

俺のために泣いただって?どうして。俺は同情されたのか?有菜は俺が可哀想だって思ったのか?大切な姉上を土方にとられた俺を有菜は不憫に思ったのか?有菜はそんな奴だったか?違ったはずだ。有菜はもっと、別の場所で傷ついてる。あいつはいつも本ばっかり読んでるせいか、年寄り臭ぇ深い考え方をするような奴だったような気がする。そんでもって人の感情にすんごく敏感だから、他人のために泣く事なんてしょっちゅうなんだ。自分のためにはあまり泣くような奴じゃない。一言で言えば面倒なやつなのかもしれない。でも面倒のレベルだったら俺のほうが数十倍上だ。今もこうして、有菜に面倒をかけてる。

「……チッ」

いてもたってもいられずに外に出ると、遠くに有菜と思わしき人影が見えた。もうすぐ来るんだったら、俺の方からいく必要はない。有菜の家の前で待ってよう。有菜がだんだん近づいてきて、俯いていた頭をもたげた。すると水分を余計に含んだ目はすぐに俺を移して、ああ早く迎えにいってやればよかったと後悔した。そういえば手にあったままだったケータイを握りしめる。無機質な形が手に痛い。

「土方の家に行ったんだって?」
「総悟」

はっとしたような顔をする有菜にいらついた。いや、いらつくとはちょっと違う。言葉にできない感情。ああもう俺のことなんてどうでもいいからそんな悲しそうな顔すんじゃねえ。

「ねえ、そう…」

いてもたってもいられなくなって、有菜の横を通り過ぎた。違う。俺はこんなことがしたかったんじゃない。でもいまさら後戻りなんて、

「っく……っ、う…」

有菜が泣いている。自分のことでは滅多に泣かない有菜が。でもその分、人のためにたくさん泣くんだ。だからって有菜は同情なんてするような奴じゃない。じゃあ、なんで

俺は自分で思っていたほど有菜を理解できていないかもしれない。有菜はこんなにも俺を理解してくれているのに。姉上になんか見せられない汚い感情や鬱憤を全て受け止めてくれるのは有菜だ。でも俺は、有菜のなにも受け止めてあげれてはいない。もっと有菜のことを知りたい。もっと、有菜と一緒にいたい。そう思うとやっぱりあんな有菜をほっとけないと思う。もと来た道をたどって、ケータイを持ってるのと反対の手でそっと有菜の手を掬う。細くて小さい手だ。こんな小さな手で、俺の全てを受け止めていたんだ。

「何泣いてんでさァ」

俺の声に有菜の嗚咽が止まる。そのほんのちょっとのことが嬉しかった。なあ、有菜。俺はひと一倍不器用だし救いようのない面倒な奴だけど、がんばるから

「……」
「言っときやすけど、悪いのはアンタなんだからねィ」
「…うん」

ほら、こんな可愛げもないようなことばかり言う。

「ごめんなさい、は?」
「…ごめん、なさい」

ずっと有菜を一番良く知っているのは俺なんだと、なにも疑わずにそう思っていた。ただの自惚れだ。なんて恥ずかしい。今日はもう寝よう。有菜と一緒に。そうすれば少しは有菜の心に近づけるかもしれない。

なんて俺らしくもないことを考えさせるのが、有菜の凄いところだ




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