俺は学校でアイツが教師以外の誰かと話しているのを見たことがない。(教師と話しているのも滅多に見ないけど)実際誰とも話していないのだろう。アイツらしいといえばアイツらしい。それでもアイツはそれなりに学校生活を楽しんでいるようだ。俺にはよく解らないがアイツは最低限の授業にしか出席せず、殆どの時間を文芸部の部室で過ごしている。あとは図書館とか、国語準備室にもたまに出入りしているらしい。その中で何が行われているかと言えば、殆どは昼寝か読書。たまに絵を描いたりしているらしいがその絵を見たことは一度もない。しかし前に、文芸部の部室に紙切れが落ちていた事があった。拾おうとしたら直に奪われてしまったが。日当たりの良い文芸部の部室は、俺もアイツも大好きだ。…ところでそろそろ、俺とアイツの関係について気になってくるのではないのだろうか。俺とアイツは家が隣で、生まれてからずっと一緒だった。生まれてから俺とアイツの間に大した変化はない。当たり前のように毎日共に登下校するその時間が、食事を摂るとか睡眠を摂るとかと同じように俺の身体に染み付いていて、今ではなんとも思わない。アイツとの関係を聞かれれば幼馴染、としか言いようがない。友達と言うわけでも、況してや恋人と言うわけでもないからだ。だが俺はあいつが好きだった、恋愛感とはまた少し違う、アイツの持っている雰囲気。人を寄せ付けず、しかし甘美なまでのその表情が、他の誰にも持っていない特別なのだ。その落ち着きを孕んだ麗しさ(なんて大袈裟だが、他に言葉が見つからない)とも取れる雰囲気が、俺は昔から大好きだった。
それは毒に似ている。
飲まれれば最期、どうしようもない。きっと俺は一生アイツと言う存在をどこかに抱えて生きていくのだろう。故意ではない、アイツの無垢な罪。いつの間にか俺は、アイツを誰にも渡したくない。そんな思いに駆られるようになった。この感情の名は解らないが、今のところは心配する必要はなさそうだ。始めに言ったとおり、俺は学校で俺以外の誰かと会話しているアイツを見たことなど皆無に等しいのだから。

春の匂が胸いっぱいに広がる季節、俺とアイツの高校生活最期の一年が始まった。



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