あのまま、トボトボと家に帰ると、家の前に総悟が立っていた。片手にはケータイを握っている。
「土方の家に行ったんだって?」
「総悟」
総悟の顔はなんとも言えない不機嫌そうな顔だった。不機嫌なだけならまだいいものの、そんな傷ついたような目をされたらあたしはなんて言って良いのか解らない。
「ねえ、そう…」
総悟はスッと、まるであたしなんか見えてないかのように自然にあたしの隣を通り過ぎて行った。つまり、それだけあの時のことは総悟にとって大きなことだったって言う事なんだ。自分の家に帰ろうとする総悟の背中を振り返ることすらできない。だって、悪いのはどうしてもあたしなんだから
「っく……っ、う…」
さっきまで声も無く泣いていたのに、とうとう嗚咽が漏れ出した。全てを放棄して、あの木漏れ日の差す部室で本を読んで居たかった。本当のことなんて何もない、嘘のストーリー。どんなに劇的な展開があっても、所詮それは作り話。いまのあたしの状況も、作り話だったらいいのに。泣いてるのはあたしなのに、一番つらいのは総悟なんだ。総悟は強くなんかない。それだけはあたしが一番知っていられたらいいと思う。総悟を支えるのは、あたしの役目だったはずなのに。そう考えると、ますます涙は止まらなくなった。あたしは誰よりも弱い。そのまま立ちすくんで泣いていると、後ろからぎこちなく、そっと手を取られた。自然と手の震えが止まる。その暖かい手が誰のものかなんて顔を見ないでも解った。これは、
「何泣いてんでさァ」
いつもよりも、図分と低い声。やっぱりきっと総悟は傷ついているんだと思う。そう思うと胃のあたりがちくちくと痛かった。どうしてこんな風になってしまったんだろう
「……」
「言っときやすけど、悪いのはアンタなんだからねィ」
「…うん」
ずっと総悟を一番良く知っているのはあたしだと、なにも疑わずにそう思っていた。
「ごめんなさい、は?」
「…ごめん、なさい」
そういうとどちらからともなく歩き出した。あたしの家に向かって。握られていて、握っている手が熱い。