結局みつばさんが帰ってきたのは朝になってからだった。あたしと総悟はその事については何もいわず、ただその日の夜はみつばさんの部屋で二人一緒に寝た。総悟よりも早く起きたあたしは、総悟の目元についた涙の痕に気が付いた。少しだけ腫れた目が、外見以上に痛々しかった。十四郎が、憎かった。総悟の気持ちが、薄ぼんやりと伝わってきた。だからもう一度寝る事にした。きっと総悟はもっと辛い、もっと悲しい。だから、同情なんてしたくないから。

「おい…有菜。起きろィ」
「う、ん…おはよ」
「…はよ」

目を擦りながら、起き上がるとどこからか美味しそうな匂いがした。それにつられるように昨日カレーを食べたあの部屋に行くと、少し焦げたトーストと、牛乳。総悟はあたしと目を合わせようとはしない。心の中で小さく笑って、「食べよっか」と呟くと総悟は小さく返事をした。
遅めの朝食を食べ終わり、あたしが食器を片付けようとした時、家の鍵が空いた。つまりはみつばさんが帰ってきた。だからとっていって総悟もあたしも大した反応はしないけど、少なくともあたしの心はざわついた。

「ただいま。二人とも」
「おかえりなさ…」
「……よお」

急に泣きたくなった。みつばさんの後ろに居心地悪そうに立つ男は、今あたしが最も嫌いな男だった。手からお皿が滑り落ちそうになる。頭が正常に機能しなくて、言葉も出ずにそこに立ちすくんだ。総悟はなんでもないような顔で二人をみている。でも色素の薄い瞳の奥が、どうしようもなく不安そうに揺らいでいた。突き動かされるようにお皿を流しに置いて、総悟の隣に行った。みつばさんが申し訳なさそうに口を開く。

「総悟と三人でお話がしたいの。…有菜ちゃん。悪いけど、」
「あ、はい。わかりました。帰ります」
「…おい、有菜」

視線だけで「ごめんそうご」と伝えると、総悟の表情が一瞬歪んだ。しかしそのことにはあたし以外気づかず、あたしはそのまま沖田家を後にした。くやしい、くやしいくやしい。




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