やっぱりこの人と私は違う。綺麗な横顔が特に表情も無く足元で石を転がしているのを視界の端で眺めていた。真似、と言うわけでもないけれども。なんとなく、ただなんとなく足元にあった石を蹴ったら見知らぬ家の壁にぶつかった。「へたくそ」と言う声が聞えてきた。一瞬頭の回路が全停止してしまった。予想外にも総悟はその光景をしっかり見ていたらしく厭味ったらしい笑みを向けられた。「う、うるせー」恥ずかしいような悔しいような気分になったあたしは思わず声を荒げた。だだだってなんか、

「そんなに嫌でしたかィ?」
「嫌…って程じゃないけど」

いつもは見せないようなあたしの態度に総悟もきっと驚いてる。そして本当に聡い総悟はあたしも知らないこの心の蟠りの名前を知っているかもしれない。

「有菜」
「なんでしょう」
「…やっぱなんでもねェ」
「あっそ、変なの」

ぽつりぽつりと話題が切れてはまた新しい話がでてくる。別に今に始まったことじゃない。無言の中に沢山の意思が交錯していることはあたしと総悟以外のひとはきっと知らない。たとえば視線で大抵の感情はわかるし。歩くペースとか、そんなものでも「あ、今日は嫌な事があったんだな」とか、「今日は何時もより機嫌がいい」とか解る。それでもやっぱり直接言葉を交わすのが一番解りやすいのだけども。なんてことをもやもやと考えていたらあっと言う間に家に着いた。今日はいつもより道のりが短く感じられた。薄っぺらい鞄から鍵を探る。中々見つからない、奥に入ってしまったようだ。「なあ」、といつの間にやら変声期が訪れて男らしくなった声が妙に響いて聞えた。鞄の中で鍵を漁る手を止めた。否、止まった。また「なんでもない」とか言われるかもしれない。なんだか、雰囲気が重い。

「今日はうちでメシ食ってきなせえ」
「別にいいけど…」
「じゃあ窓開けておくんで」

そう言ってスタスタと家に入っていってしまった総悟をあたしは、あっけらかんとした顔で見送った。なにか重大な事を言われると思ったのに。もしかしたら何か隠しているかもしれない。しかし考えても仕方が無いし、総悟に問い詰めたところで答を言わないのは明白だ。大分温かくなった季節の夕暮れ、溜息を付いて鍵をドアに差し込んだ。



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