書きかけD

「#名前#、俺――…」


青峰から逃げてしまう。
嫌いな訳じゃない。避けたいわけじゃない。まったく不本意ながら、青峰に会うのが怖い。顔を見るのが、声を聞くのが、目を合わせるのが、触れられるのが、求められるのが。たまらなく怖いのだ。
もう三日も部活に顔を出していない。いい加減にしないと赤司君からお咎めを受けるのはわかってるのだけど、どうしても足が体育館に向かない。廊下ですれ違うのも怖いのだから、バスケをしてる彼を直視することなんてできない。
だけどそろそろ限界だ。青峰からの不在着信は日に日に増えるし、バスケ部の仲間からの着信やメールも増えてきた。自分が必要とされているのは嬉しい。だけど、皆から送られてくるいずれにも、返事をすることができなかった。

「あっ!#名前#っち発見ッス」

すぐさま振り向いて青峰が横に居ないことを確認。そして黄瀬君の腕を引いて人気の無いところまで逃げ出した。

「ちょ、どうしたんスか!?」
「青峰に見られたくないの」
「…え、じゃあ最近青峰っちが荒れてるのって、やっぱり#名前#っちが原因なんスか?」

やっぱり荒れてるんだ。申し訳なさを感じて目線を泳がせていると、黄瀬君は眉を下げて笑った。

「何があったかはこっちからは聞かないッス」
「うん。ありがとう。青峰には内緒ね」
「あー、青峰っちに内緒なのはいいんスけど」

今度は黄瀬君が目線を泳がせた。「赤司っちに言われてるんス。#名前#っち見かけたら僕の処に呼ぶようにって」

「やっぱり…怒られるのかな」
「ッスね…」

昼休みは大抵部室で真太郎と将棋をしてるはずだ。できるだけすぐに行くのが好ましいだろう。

「…黄瀬君、お願いが」
「仕方ないッスねえ、今度女の子避けになってくれたら部室までボディーガードさせてもらうッス」
「ほんと、ありがとね」

ほんとうによくできた男だ。眉目秀麗、才色兼備、おまけに気も使えるときたもんだ。女の子達がほっとく理由がない。
私はそのまま黄瀬君の大きな背中に隠れながらそそくさと校内を移動した。しかしこの作戦には問題点が一つ。上記の通り黄瀬君は女の子に絶大な人気を博しているので、非常に人目を引くのだ。

「やっぱりこのまま部室まではしんどいッスね…」
「そうだね…自分で行くしかないのかな…」
「じゃあ紫原っちの教室が近いんで、紫原っちにお願いするッス」
「名案」

想像通り、むっくんは教室の自分の席でひとり、お菓子を貪っていた。

「あれーふたりともどうしたの?ってか#名前#ちん久しぶりー」
「むっくん!お願い!私を青峰から守って部室までつれてって!」
「えーめんどくさ「まいう棒何本?20本?」んー仕方ないなあ」

つつがなくむっくんを囲うことに成功し、黄瀬君とも別れ再び廊下を黙々と歩く。

「#名前#ちんいないとさー峰ちん機嫌悪くて嫌なんだよねー」
「うん…ごめん。でも私が居ても、もっと悪くなるだけだと思う」
「めんどくさいから理由は聞かないけどさー早く仲直りしてよね」
「うん…がんばる」
「アララ…峰ちんだ」

むっくんの目線の先には、確かに青峰がいた。いつもより眉間が狭い。あのガタイの男が不機嫌オーラバリバリというのは、かなり威圧感を放つものだ。私だって件の問題を無視しても近づきたくないし、まわりの生徒たちだってそうだろう。「むっくんありがとう。もうすぐ部室だから私行くね。5本追加で青峰を引き止めといてくれると嬉しい」「えーめんどくさいからそれは嫌。峰ちん本当に機嫌悪いんだからー」

むっくんの言葉を背中で聞いて私は走り出した。少しでも早く、遠くへ。

「…で、ようやくここに来た訳か」
「#苗字#もよくやるのだよ。青峰から逃げようなど、並の人間が考えることではないのだよ」
「確かに、大輝はあれで意外と執念深いからな。逃げ続けるのはアイツの機嫌を悪くするだけだろう」
「だって…頭の整理ができなくて」
「まあ恋愛云々は個人の勝手だから口出しはしない…と言いたいところだけど、#名前#の不在にエースの不機嫌は部に支障をきたすんだよね。ほかの部員も怪訝に思い始めてるし」
「ごめんなさい…っていうか、赤司君。どうして恋愛云々の問題だってわかったの」
「僕に君たちについての事でわからないことなんてないさ」
「う…流石だね」

赤司君は余裕の笑みを浮かべていた。横で将棋を打つ真太郎は呆れたような顔をしていたけど、ちゃんと聞いてくれているみたいだ。

「告白…されたんだけど、あまりに衝撃的で、突然過ぎて…頭と心の整理ができなくて、青峰が前に居ると、どうしても逃げたくなっちゃうの」

三日たってもくっきりと思い出せる。風が頬を撫でる感触まで、鮮明に。

「だって、嬉しいけど、私がはいって言ったら、今まで培ってきたものが、全部、パァになっちゃう気がして」
「うん」
「皆とも、今まで通り仲良くなれなくなったりしたら、そんなの、絶対嫌だし」
「うん」
「だけど断ったら、青峰は、絶対、私から距離を置くでしょ?そんなの、そんなのやだ」
「うん。そうだね。でも、大丈夫」

赤司君の言葉は魔法みたいだ。今まで肩に乗って私を緊張させていたものを、ふうっと息をかけるように飛ばしてしまう。

「僕らの結束はそんな些細なことじゃ崩れない。#名前#のやりたいようにするといいよ」
「赤司君…」
「大輝はあれでしっかり考えてるから大丈夫さ。#名前#の本当の気持ちを、伝えてやるといい」
「うん…ありがとう」
「それならさっさと解決して欲しいのだよ。部活がしにくいったらない」

真太郎はクイっとメガネをあげるお決まりの仕草をした後、

「あ…#名前#さんこんな処にいたんですか」


あなたの歯にはウソがない

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