眠いナツの原因は

 昼休みになり、にわかに騒がしくなった教室内。ほとんどの生徒が食堂に行く中、ナツは机に伏せたまま動かなかった。その背中に抱きつくド派手な生徒。


「なーつきゅんなつきゅんなつきゅん」
「どっくん……声が大きい」


 耳元で大きな声を出す同じクラスの樫戸 喜代(かしど きよ)。校則がゆるいとはいえ目立つピンクの頭に、着崩され染色されてもはや原型を留めていない制服。しかし藍色の目は天然らしく、どうやら地毛も黒ではないらしい。ナツにうるさいと言われ、はっとして声をひそめた。


「眠い?」
「昨日寝たのが遅くてさ」


 寝たのが遅かった……それを聞き、ふぅん、と言う喜代。


「えっち」
「なんで……」 


 再び伏せる。そこへやってきたのは、満和。片手にクリームパンの袋を持っている。


「ナツ、ご飯食べた?」
「それより、眠い」
「ちゃんと食べないと授業中にお腹鳴るよ」
「んー……」
「珍しいね、ナツがご飯食べないなんて」
「昨日の夜、に、理由」


 喜代の言葉にナツを見下ろす。その机の上にパンをそっと置いた。


「昨日の夜、そんなに遅く寝たんだ」
「鬼島さんがさ」
「うん」
「どうしてもっていうから」


 鬼島さんがどうしても。そう言われてしまうとなんだか、そちら方面の想像しかできなくなる。そんな自分が少し嫌になる満和。いつの間にこんな思考になったんだろうか。


「……朝まで?」
「うん」
「へえー……」
「鬼島さん、しつこいんだもん。嫌だって言っても寝かせてくれないし」
「……うん」


 話は聞いているが、喜代の頭の中は「鬼島って誰?」でいっぱいである。いっぱいであるがつっこまない。つっこむことができない。


「満和のとこは、有澤さん、そういうことしなさそうでいいね」
「……うーん、まあ、休みの前、とかくらいかな、長いの」


 喜代は有澤って恋人なのと思いつつ、口に出さない。ナツは長い長い溜息をついた。


「鬼島さん、ハマっちゃうと全部見たいんだって、海外ドラマ」
「……あー、そっち」


 満和のことばに、ナツと喜代は頭に? を浮かべている。


「なんでもない。ごめん」


 不埒な脳を責める満和。
 ナツは再び机に伏せ、夢の世界へ行ってしまったようだった。

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