鬼島佐々木有澤、釣りと寿司屋

 
『お友だち(偽)』鬼島とナツ
『佐々木さんの恋人』佐々木とシノ
『有澤さんと高牧くん』有澤と満和

会話多めです。





 朝五時、枕元の携帯電話が鳴り響いた。名前は鬼島。どんなときでも上からの電話には三コール内で出なければならない。跳ね起きた有澤の隣で、可愛い恋人も目を覚ました。


「おはようございます。有澤です」
「あ、ありりん? おはよー」


 朝から緊張感のない声。あ、これは重要な事態ではないな。そう感じた有澤は、弟分から後輩の顔になり、身体の力を抜いた。眠たそうに目を擦る恋人の頭を大きな手で撫で、眠るよう促す。


「何の用ですか」
「釣り行くから付き合えー」


 のんびりしつつも有無を言わさない口調。再び目を閉じた可愛い顔を見ながら、深い深い溜息。ああ、恋人と過ごす休日はお預けか。





「譲一朗、なんでそんな嫌そうなわけ? 先輩に誘われたら嬉しそうな顔しろよ」
「お前こんな朝っぱらから呼び出されて嬉しいのか、カズイチ」
「優志朗先輩に誘われたらいつでもどこにでも行くよ、俺。なんでもするし」
「……その盲目さ、本当変わらないな」
「凄いでしょ」
「いや、怖い」


 防波堤の上、釣り人に混ざって釣り糸を垂らす有澤。がっしりした身体に鮮やかなオレンジ色のダウンジャケット、徹底的に防寒した格好で小さな椅子に座っている。
 隣には有澤に比べて薄着の佐々木が、潮風をものともしないような顔で飄々と波を見つめていた。足元にはすでにビール瓶。有澤はこいつの肝臓は一体どうなってんだと白い顔を見る。


「いーよね、同級生って。俺もそういう気のおけない人っての? 欲しいなー」


 二人を呼び出した張本人である鬼島は佐々木の向こうで、二人と同じように釣り糸を垂らしている。有澤と同じくらい厚着、眼鏡オフで前髪を上げているリラックスモードの横顔は昔から変わらない。鋭い目を意識して隠しているのはなぜなのかよくわからないが、なにやら意味でもあるのだろう。有澤はそう思う。


「俺がいるじゃないですか、先輩」
「お前は俺のストーカーだろ」
「優志朗先輩のそういう突っ込みがたまりませんね」
「怖っ。ありりん同級生じゃん。こいつなんとかしてよ」
「鬼島先輩のほうが付き合い長いでしょう。あと、ありりんって呼ぶのやめてください」
「あーりんのほうが好きなの?」
「普通に呼んでくださいよ」
「なんか譲一朗のほうが親しげですよね」


 六本目のビール瓶を空にした佐々木が言う。なぜか睨みつけられた有澤、理不尽さに溜息。このやりとりももう慣れたものだ。十数年繰り返している。


「俺にもなんか呼び方つけてくださいよ」
「ストーカー」
「もっと愛に溢れたやつにしてください」
「ストーカー(ハート)」
「言い方が可愛いのでありです」
「いやだめだろ。なんも変わってないぞカズイチ」
「語尾跳ねてて可愛かったからあり」
「結局ストーカーじゃねえかよ」
「……譲一朗がうるさいんで、別のおねがいします。すみません」
「待てよ、なんで俺が悪いみたいになってんだよ。そもそも鬼島先輩が」
「優志朗先輩の悪口は許さないよ」
「俺が悪いのか、おい」
「佐々木ねえ……うーん……豚骨……油……バリカタ……若い子好き……飲んだくれ……色白……病人……死人レベル……違法風俗経営者……元ヒモ……元不良……前科持ち……根性曲がり……絶倫……」
「カズイチ、お前の尊敬してる先輩の口から出てくるお前の印象最悪なもんばっかだぞ」
「先輩、そんなに俺のこと知っててくれてるんですね……感激です」
「いや、えっ」
「だめだー、やっぱ佐々木につけるあだ名ないわ」
「いえ、先輩が俺のことかなりわかってくれてて嬉しかったんで、もうあだ名とか小さいことどうでもいいです」
「今の羅列のどこにそんな感激するとこあったんだ」
「あーりん、俺にもビール取ってー」
「俺にも新しいのちょうだい、あーりん」
「……疲れた」


 まだ早い段階で疲れて眠くなった有澤が車の後部座席にて眠っていたとき、鬼島佐々木はまさかの入れ食い状態、まさかの大漁。
 目を覚ました有澤、呆然。


「いやー釣った釣った。楽しかったー」


 ワンケースひとりで飲み干してなお顔色ひとつ変わらない佐々木は抜かりなく行きつけの寿司屋に連絡を取り写メを送り、握れるかどうか問い合わせ。気まぐれに開ける寿司屋なので定休日がない。店も十人が限界の狭さである。


「今日はネタ仕込んでるから、六人分くらい余裕らしいですよ」
「ナツくん白豚ちゃん満和くん呼ぼう」
「……鬼島先輩?」
「ん?」
「なんで高牧くんの下の名前呼んでるんですか」
「近くにねえ、可愛い子がいると気になっちゃうんだよね。俺の悪い癖」
「気になっちゃうって、」
「あー、満和くんかわいいよね。幼いっぽいのが最高だと思う。肌つるつるで気持ちいいし」
「カズイチてめえ触ったのか」
「今日会ったときに、満和くんが顔赤らめたらごめんね」
「鬼島先輩、本当に高牧くんになんかしたんですか。本当に」
「ナツくんと再会する前だから鬼島さんもいろいろとね、やんちゃで」
「鬼島せんぱ、ちょ、嘘でしょう!?」
「あっはっは」
「笑ってんじゃねえぞカズイチてめぇ」
「うわ、懐かしーあーりんの悪態。最近はおとなしくなっちゃってなかなか聞けないから」
「高校時代を思い出しますね」





「た、高牧くん、鬼島さん見て顔赤くしてたけど、なななな何かあったのかまさか」
「……別に」
「旦那さんには内緒ですよ、奥さん」
「!?」
「俺のことも内緒ですよ、奥さん」
「佐々木さんにはいきなりお尻揉まれてほっぺたぷよぷよされました」
「ワレなに高牧くんに触ってるだかぁ!」
「あーりん、方言出てる方言、落ち着いて」
「親友の恋人の味見」
「親友じゃねえし俺がシノさんに手ぇ出してもいいのかよ」
「シノ、有澤のおじちゃんだったらいいよー」
「やめな白豚ちゃん、あんながちむちまっちょ、力任せに挑んでくるよ。満和くん毎回立てなくなるんだから」
「鬼島先輩、なんで知ってるんですか」
「腰がくがくになるし顎も疲れるし溢れるくらい出されてびっちょびちょになってお腹壊すよ」
「高牧くんはまぐろととびうおといかとかっぱ巻き好きなだけ食べてくれていいから静かにして貰えると助かる」
「有澤のおじちゃんすっごいね。シノもそのくらいされてみたい」
「シノちゃん、そういうのがいいの?」
「佐々木には無理だよ。ねちっこいもん」
「……鬼島先輩って、なんでも知ってんですね……高牧くん、口開けないでくれ。まぐろあげるから」

「佐々木のおじちゃん」
「ん? なーにシノちゃん」
「あの、ナツさん? 大食いチャレンジでもしてるの? あんなおっきい桶でちらし寿司食べてるけど、あれ酢飯作る桶だよね」
「あの子の胃はブラックホールだから気にしないで」

「ナツ、うまいか」
「すごくおいしい」
「そうか。よく食ってでかくなれよ!」
「ありがとう大将!」

「ナツは誰とでも仲良くなっちゃいますね」
「あの食いっぷりと嬉しそうな顔見たら話したくなるんじゃないか」
「わかる気もします……」

「あーナツくん可愛い。ナツくんに食い散らかされるなら全財産失ってもいい」
「……鬼島先輩が高牧くんになんかしたなら、俺もナツさんに手ぇ出」
「調子乗ると肥料にしちゃうぞ譲一朗」
「はっ、優志朗先輩の半グレ時代の声がした。くそっ、見逃した」
「佐々木のおじちゃん、ほんと鬼島のおじちゃん好きだよね」
「うん」
「シノは嫌い」
「あら、でも俺もでぶはきら」
「シノでぶじゃないもん」
「鬼島さん、デブ嫌いなんですか。たくさん食べすぎて最近ちょっとぷにってきたおれなんか嫌いなんですね……」
「脂肪最高、ぷよぷよ上等」
「つまりナツならなんでもいいんだ」

「満和」
「ん?」
「ご飯つぶついてる」
「恥ずかし……ありがと」
「ナツくんが世話焼いてる……かわいいっ……」
「恥ずかしがってる高牧くん……たまらないな」

「シノちゃん? シノくん?」
「どっちでもいいですよ」
「可愛いね」
「うん。可愛い」
「ナツくんが……ナツくんが可愛いって……そんな性悪白豚ちゃんよりナツくんのが宇宙倍可愛いのに」
「シノちゃんが敬語使ってる……シノちゃんの可愛い頭の中に敬語ってあるんだ」
「高牧くん……微笑んでる! 俺なんかより可愛い子のが好きなんだな……」
「そりゃがちむちゴリラよりちっちゃいこのほうがいいでしょ」
「黙ってください」

「ナツくんのお腹、ちょいぷに」
「ほんとだーナツ本当に太ったんだね。全然気づかなかった」
「おれ、腹しか太らないんだ」
「あああナツくん、デニムにちょっと乗ってるお腹も可愛い」
「……譲一朗、今度満和くん貸してよ。悪いようにはしない、写真撮るだけ」
「ナツくんも混ぜて」
「……写真?」
「平たく言えばまあ、着エロ写真?」
「玩具や小道具を使って日常をベースにいやらしい写真を撮ります。衣装も様々、制服から私服、コスプレ、えろ下着、ボンテージ。安心の風俗業界と裏業界クオリティ。もちろんプロによる撮影」
「愛しの恋人の一瞬の輝きを残しませんか」
「……っ、ぜひ……」

「大人が怪しげな会議してる」
「小声なのが怖い」
「ろくなことじゃないと思う」
「なんか変なことさせられたらやだなー……」

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