右京ナツ、後日

 

『お友だち(偽)』ナツときどき鬼島
『拾った子の癖は』ウキョウ





「なつ、大丈夫?」
「うん。もう全然! ありがと」


 元気に笑うナツに、安心したようにウキョウも顔をほころばせる。
 変態男事件から一週間後、今度こそ勉強を! と言うナツとまた駅で待ち合わせた。休日で私服なのがまた可愛く見え、出会い頭に恒例となりつつある写真撮影を終えて歩き出す。
 また手を繋いだが、もう変な人は現れなかった。


「あ、家行く前にケーキ買って行こ。おいしい店があるんだ。なつに食べてもらいたい」
「ケーキ! 食べる!」


 ナツはご丁寧に手土産の煎餅を持参しており、甘いものにはしょっぱいものでちょうどいいと以前おじさんが買ってきてくれたケーキの店へ。

 可愛らしい小さな外見のケーキ屋、優しそうなお姉さんが迎えてくれた。
 ガラスケースの中に輝くケーキを見て、ナツの目が負けずに輝く。それを見てウキョウも幸せ。


「なにがいいかなー」
「どれもおいしいよ」
「うう、迷うなー全部おいしそうだもん」
「じゃあ全部一個ずつ買っちゃう?」
「えーさすがにそれは……」


 ウキョウのものではない声が当たり前のように挟まれた。振り返ると、そこには。


「ナツくん、プリンも好きだよね? ここのプリンおいしいよ」


 相変わらずの佇まいで鬼島さん。
 一体いつからいたのか、あとから入って来たにしては店のドアベルが鳴らなかった。眉を寄せるウキョウの前で、全種類一個ずつとプリンふたつ、と注文する鬼島。


「ふたりで仲良く食べればいいよ」


 と、お支払いも済ませてしまった。
 美味しいケーキがたくさん手に入って純粋に喜ぶナツ。それを見て愛しげに頭を撫でる鬼島。仏頂面で礼を言うウキョウ。


「あら、お礼言えるんだ」
「……おじさんがこの前、嫌いな人にも礼儀は持てって言ってたから」


 心底嫌そうな顔。ある意味正直だと、鬼島はナツの頭をなでなでしつつ思う。


「じゃ、気をつけてねナツくん」


 前のようにマンションまで、またあのきらきらしたお兄さんが運転する車で送られた。


「気をつけて、ってどういう意味ですか」


 きょとんとするナツ、鬼島はウキョウをちらりと見た。


「仔羊の皮を被った狼がいるかもだから。がぶっと喰われないように、可愛いお尻守ってね」
「? わかりました」


 明らかにわかっていない顔。
 しかし釘は刺したとでも言わんばかりに、鬼島は去って行った。


「なつ、あのおっさんってなつのことずっと見てるんじゃない?」
「まさか、そんなことあるわけないよ。仕事もあるし」
「仕事? 仕事ってなに?」
「会社の社長さんだって」
「……あやし……」


 あまり鬼島の噂をするとまたひょっこり現れかねない。ウキョウはマンションに入りつつ、さり気なく話題を変えた。


 勉強を(ウキョウがやっている問題集をのぞき込んだナツが固まる一幕もあったが)無事に進め、ふたりで晩ご飯づくりをして男子高校生らしからぬ豪華料理を作って食べた。
 昼間にケーキもプリンも食べたナツだが、晩ご飯ももりもり食べた。その食欲に驚き、食べているときの幸せそうな顔の可愛らしさには笑ってしまう。ナツはナツで、周りの級友が持っていない優雅さで食事をするウキョウにどきどきしてみたりして。

 洗い物を終え、残りのケーキをさらにぱくつくナツ。その隣に座り、近い距離で横顔を見つめる。


「なつ、今日泊まってく?」
「悪いから帰るよ」
「なつと一晩過ごしたいな」


 ウキョウはナツの顎を指で捉え、クリームがついた唇を躊躇いなく舐めた。かっこいい顔が至近距離に来て、予想外のことになんの反応もできない。


「甘いね、なつは」
「いや、それ、クリーム、ウキョウくん、落ち着こ?」


 ぱったり、リビングの床に押し倒された。真っ赤になるナツの頬にキスをして、仔猫みたいな表情でのぞきこむウキョウ。漆黒の眼差しにどきどきしてしまう。


「なつは、ぼくのこと嫌い?」
「きら、そんなわけない! すきだよ!」
「好き? じゃあいいよね」
「えっ、なにが、あっ、よくないから!」


 指が、シャツのボタンにかかる。焦るナツ。素肌が少しずつ現れてきた。


「はい、そこから先はお客さん、お金払ってもらわなきゃ」


 すっかり聞き慣れた低い声。それと、手首を掴んだ大きな手の持ち主はもう決まっている。


「……またいきなり現れたね、おっさん」
「ナツくんいるところに鬼島さんあり。これ自然の摂理」
「ナツくんのお迎えに来たんだって」


 鬼島の後ろに苦笑いを浮かべるおじさん。おじさんが帰ってきては仕方ないと、ナツを解放した。


「お邪魔しました」
「ううん。また来てね。お煎餅ありがとう」


 ぺこり、礼儀正しく頭を下げたナツを見て微笑み、見送ったおじさんとウキョウ。鬼島に連れられてナツは帰っていった。
 リビングへ戻る前、ウキョウの身体を後ろから抱きしめるおじさん。


「……若い子がいい?」


 低い声で囁かれ、ぞくっとする。


「なつは、可愛いから。おじさんと違うよ」
「そうなの?」
「うん。おじさんには愛されたいけど、なんかなつはなんだろ……愛したくなる」
「ふーん。俺ももっと長くあの子といたら愛したくなるかな」
「だめ」


 おじさんを見上げ、ウキョウは言う。


「だめ。おじさんは、」
「うん?」
「おじさんは、ぼくの」
「ふふ。うん、わかってる。嘘だよ。俺が愛したいのは右京だけ」
「……うん」


「あのこぞ……仔猫ちゃんは本当にナツくんらぶだね」
「恥ずかしいです……あんな、ヒャー」
「ナツくん、鬼島さん、言ったよね? 鬼島さん以外としたらお仕置きだって」
「ふぁっ!?」
「お仕置きだよ、ナツくん」
「えっ!」
「さ、アパート帰ろうね」


 愉しそうな鬼島の横で顔を青くするナツだった。

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