クリスマスしましょ!2017

 聖なる夜の前日、鬼島家はだいぶ賑やかだった。歌いながらツリーを飾り付けるのはシノ、それを手伝う佐々木。台所ではナツと右京と有澤と鈴彦と直が料理を作っている。満和は写真係だ。鬼島はプレゼントの確認に、加賀と当たっており、確認するとこっそり納屋から出てきた。


「もうちょっと陵司くんと密室に二人きりでいたかったな」
「じゃあお一人でどうぞ」
「えっ意味わかんないじゃん。陵司くんといたかったのに」
「俺は苦痛でした」
「酷い」


 泣き真似をする鬼島を放ってさっさと母家に戻る加賀。玄関に回って靴を脱がなければならないのだが、これもまた一苦労だ。広い家だから。



「あの、加賀さん」
「ああ、談さん。こんばんは」
「こんばんは」


 ぺこりと頭を下げたのは鬼島家と佐々木のもとで働く談だった。ダウンジャケットを着てオフ仕様、髪の毛も下りている。


「今日パーティだって聞いて、これ作ってきたんです。皆さんでどうぞ」


 籠に入ったものには白い布が掛けられている。ちらりとめくって見せてくれたのはクッキーだった。


「ジンジャーマンクッキー?」
「だと、味の好き嫌いがあるかなと思ったので形だけ。胡桃ときび砂糖で作りました」
「ありがとう。寄っていきます? 俺の家じゃないけど」
「いえ、オレも待たなきゃいけない人がいるんで失礼します」
「わかった。ありがとうございました、寒い中」
「いいえ。パーティ楽しんでください!」


 にこにこと笑って頭を下げ、車に乗って帰っていった。


「あら何その籠」
「見てたくせに」
「ミテナイヨー」
「談さんが差し入れてくれたんです。ジンジャーマンクッキー……もどき」
「一個頂いちゃお」


 ぱくりと口に入れた鬼島、んーおいしい! と唸るので、加賀も真似して口に入れてみた。ほんのりした甘さとこりこりした胡桃の感触が癖になり、しつこくないので何枚でも食べられそうだった。


「小分けにしてお土産にしましょう。袋はありますか」
「ちょうどラッピングの袋があったんじゃないかな? 白豚ちゃんが買ってきたやつ」


 そんな話をしながら戸を開けると、室内はいい香り、というより様々な香りに包まれていた。甘い香り、肉の香り、野菜の香り、酢の香り。
 台所を覗いてみると続々と料理ができつつあった。ローストビーフにローストチキン、グラタンにピザに野菜スープになぜか五目寿司。


「なんでお寿司なのナツくん」


 側にいたナツの腰を掴まえて聞いてみた。するとほんのり頬を赤くしながら「お祝い事にはお寿司かなって」と言う。可愛かったので許した。


「鈴彦くんが作ったグラタン、おいしそう」
「直も手ぇ出しただろ」
「少しね」


 人前だというのに愛しげに抱擁して額にキスをする直に鈴彦は真っ赤になった。ばか! とぎゃんぎゃん騒ぐ。それを見た満和は写真を撮る手を止めて有澤を見上げた。


「な、なんだ満和くん」
「羨ましいです」
「できないぞ俺には」
「知ってます。だから羨ましいんです」


 困ったように頬をかく、セーターの腕まくりをした有澤。それとサイズ違い色違いのセーターを着た満和はカウンターに両肘をついて顎を手にのせ、ふぅとため息をついた。


「右京のピザは成功?」


 後ろから抱きしめて加賀が聞く。後頭部を摺り寄せ、頷く右京。


「よかったね。たくさん練習したからね」
「なつに美味しいピザ食べてもらいたかった」


 その猫目が射抜くのは鬼島にキスされそうになり、だばだばしているナツの横顔。


「おっさんこら、なつにちゅー禁止」
「なんでよ。仔猫ちゃんにそんなこと言われる筋合いありませーん」


 べー、と舌を出す鬼島に「子どもじゃないんですから」と宥めモードのナツ。ふしゃーと穏やかではない右京をよしよしする加賀。


「ツリーできたよっ!」


 ぴょんぴょんとやってきたふわふわ真っ白ミニスカートワンピースのシノ。後ろから佐々木がのっそりついてくる。白いシャツに白いパンツ姿というシノとおそろいの色合いの姿だ。


「料理もできたし、ご飯にしよっか」


 鬼島の一言で続々と運ばれる料理。それらは二皿ずつになっており、未成年席と成年席とに分けて置かれる。未成年席にはお茶とジュース、成年席には酒がおいてあった。


「じゃあ乾杯をあーりんから」
「俺ですか」
「不服?」
「いえ別に……では、今年もいいこと悪いこと色々あったかと思いますが今日はそれらを忘れる日にしましょう。ハッピークリスマス!」


 ハッピークリスマス! と言って各々飲み物を口にする。


「なつなつ何食べる? 取ってあげる」


 抜かりなくナツの隣をキープした右京が近くから話し掛ける。お尻に手が触れているのは偶然だ。多分。


「全部一通り食べたいじゅるじゅる」
「じゃあ取ってあげる」


 チキンを手際よく解し皿に盛り付け、ローストビーフなども少しずつ取って渡す。


「ありがとうウキョウくん」
「なつなつなつ、可愛い笑顔はぁはぁ」


 とうとう抱きついた右京の背中をぽんぽんしながらも目は皿に釘付けのナツ。そんな姿を撮影する満和の皿に程よいボリュームで盛り付けられた料理。


「ありがと……鈴彦くん」
「別に、ついでだし」
「シノのも取ってくださいっ」
「はいはいついでだからな」
「お願いします!」


 わいわいと楽しそうな未成年席を見ながら成年席は静かに酒を飲む。たまに料理をつまみながら。


「若い子が仲良くしている姿はいいね」
「十里木さん、あんたこんなとこにいていいわけ?」


 鬼島の言葉に猪口を持ったまま首を傾げる。


「今日はプライベートだよ? 友人の家に遊びに来て問題が?」
「友人になった覚えはないけどね」
「鬼島さん」


 加賀の声に肩を竦め、ワインを口にした。その隣ではせっせと佐々木が鬼島の皿にチキンを取り分けている。


「ツリーきれいだね」


 ぱくぱく料理を食べながらナツが見上げたので、未成年組は皆一様にツリーを見上げた。和室にツリーなのでどこかちぐはぐだが、きらきらと電飾が豊かに光る大きなツリーだ。星の飾りが天井に届きそうなほど。


「シノ大変だったんだよ。だからいっぱい見てね!」
「うん。お疲れ様、シノくん」


 ナツに言われて嬉しそうに笑う。満和はそんな姿も写真に収めた。


「ちょっと寄りなさいよ仔猫ちゃん」


 時間が経ち、場が崩れてきた。成年組未成年組関係のない時間だ。


「なつの隣はぼくのもの」
「鬼島さんのものですぅー残念でした! ナツくんの最愛は誰か考えればわかるでしょ」
「右京、こっちにおいで」


 加賀に呼ばれていそいそ席を移動した右京。舌打ちを残して。代わりに鬼島が隣りに座る。


「いっぱい食べた? ナツくん」
「まだ食べてる途中です! ピザが美味しいんです」


 遠くから聞こえたナツの言葉に珍しく顔をほころばせる右京。加賀は微笑ましくその頭を撫で撫で。


「満和くん、食は進んでいるか」


 シノがいなくなった場所に座った有澤が心配そうに尋ねる。


「いつもより食べられてますよ。楽しいです」
「そうか。それなら何よりだが」
「有澤さんは? たくさん食べましたか」
「食よりこっちでな」


 日本酒の瓶を持参していた有澤。


「美味しいんですか、お酒って」
「満和くんはだめだぞ」
「わかってます。純粋な興味です」
「美味いものは美味いな」


 そうなんですか、と言いながら有澤の膝に手を置く満和。動揺する有澤。


「みみみ満和くん!」
「ちょっと疲れました。凭れてもいいですか」
「構わないが……少し恥ずかしいな」
「じゃあ」
「いや構わない。凭れなさい」


 ぴったりくっついた有澤と満和。羨ましそうに見るのは鈴彦で。離れた場所で酒を飲んでいる直がこちらに来る様子はない。ならば自分が行かねばならないと思うのだが恥ずかしい。佐々木とシノは佐々木の膝の上に乗ってご満悦なシノがいるし、鬼島とナツは会話しながらぱくぱく料理を食べるナツを鬼島が優しく見守っている。加賀と右京のところはぴったり、というわけでもないが近い距離で、たまに料理をつまみながら何やら話をしているようだった。
 自分たちだけが遠い。
 距離を近くするのはほんの少しの勇気だ。しかし鈴彦には妙な意地があって、それが邪魔をして近付けない。直の方から来てくれればいいのにと半ば苛ついた。まるで我慢比べだ。我慢できなくなったほうが動く。


「鈴彦くん」


 疲れたような顔をした満和が話しかける。そちらを向くと、行ってくれば、と言われた。


「何で俺から行かなきゃなんねぇんだよ」
「でも十里木さんの近くに行きたいんでしょ?」
「行きてぇ、けど」
「じゃあ素直にならないと。十里木さん、待ってるよ」
「待たせときゃいい」
「聖夜くらい素直になってもいいと思わない?」


 一方の直は野菜スープを飲んでいた。意外と鈴彦が頑固だ。もう少し早く来ると思っていたのだけれど。


「十里木さん、楽しんでますね」


 加賀が苦笑混じりに言う。


「そうでもないよ。焦れてる」
「嘘ですね。楽しんでます」


 加賀の言葉にふふと笑って野菜スープを飲み干した。


「行ってあげたらどうですか」
「来るのを待つのが楽しいんだよ」
「やっぱり楽しんでるじゃないですか」
「あ、そうだね。そうみたいだ」


 飄々とした上司に溜息をつく加賀。右京は鈴彦の寂しげな顔を見て心配になった。


「十里木さん」
「なんだい右京くん」
「行ってあげてください。鈴ちゃん、寂しそう」


 ひとりローストビーフを食べる姿に悲しさを感じた右京が言う。


「……あれを食べたら鈴彦くんは僕のところに来るよ。間違いなく、ね」
「なんでわかるんですか」
「兄弟だからさ」


 その宣言通り、ローストビーフを飲み込むと鈴彦がのっそり立ち上がった。こちらへやって来る。


「来てやったぞ、直」
「うん。ありがとう」


 猫のように擦りつくのを見て、右京は微笑った。


 食事が終わり(ほとんどの料理をナツが食べ尽くした)、ケーキを食べ、お風呂タイム。未成年組がきゃっきゃと入るのを覗き見していた成年組。


「あー楽しかった!」


 客間に敷かれた布団にごろんと横になるシノ。相変わらず短いふわふわワンピース姿でハラハラする。寝る順番は壁側から鈴彦、右京、シノ、ナツ、満和となっている。


「こういう泊まりって慣れねぇから緊張するな」


 紺に白い線が入ったパジャマ姿の鈴彦が言うとシノがリラックスリラックス! と言う。


「明日の朝、サンタさん来るかな」
「ツリーの下が楽しみだね」
「うんっ」


 おやすみなさいと消灯。鈴彦の布団に潜り込んだ右京に抱かれて鈴彦は朝までぐっすり眠った。その姿を覗き見に来た成年組がいたとは誰も知らずに……。


 翌朝、起きた未成年組はまっさきにツリーの下を見に行った。寒い朝の中でキラキラ光る色とりどりの包装紙。それぞれに名前が書いてあり、たくさんのプレゼントを手にした未成年組。


「メイクボックスにたくさんコスメが入ってるー!」
「踊り炊きのお釜だ!」
「フィルムカメラ……」
「鉱物図鑑と、宝石図鑑」
「しゃもじ」


 他にも他の成年組から未成年組へのプレゼントもあったりして、賑やかに開封式が行われた。そのうち成年組も起き出してきて、嬉しそうにお礼を言う姿にほのぼの癒された朝だった。


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