海へ行く! 2

 肉組は鬼島、ナツ、談、右京、佐々木。
 海鮮組は有澤、満和、加賀、シノ。


「おじちゃんお肉なの?」
「肉」
「シノは海鮮食べたいからあっちいくね」
「うん。加賀さんに食べられないように気を付けてね」
「食べるのは海鮮だよ?」
「そうだね」


 よしよしと頭を撫でて、満和と仲良くお手手繋いだ姿を抜かりなく撮影。
 そして右と左に分かれて各々歩いていく。


「なつなつ、お肉楽しみだね」
「そうだねーふふふ」
「仔猫ちゃん、ちょっとナツくんと近いんじゃないのかな」
「うるせー」


 ぎゅうっと手を繋いだ右京、すりすりしながら足を進める。
 後ろからぎりぎりしつつ着いて行く鬼島、佐々木は道を知っているので先にすたすた歩いている。談はのんびり鬼島の隣。

 さて、店に入って席に着き、案外と豊富な肉の種類と料理を選ぶ。ナツは当然のように大食いチャレンジメニューを選んで、右京と談はステーキ丼、鬼島と佐々木はステーキをレアで。


「お兄さんたち、かっこいいねえ。モデルさんか何か?」


 店の人間に尋ねられ、一般人です、と答える談のきらきら笑顔のおかげでサラダをひとりずつ無料で貰えた。喜んで食べるナツを撮る談と右京。佐々木は鬼島の隣を陣取って異様に近くにいて、身体を少しずつ離されている。


「佐々木、暑い」
「いや最近こういうシチュエーションなかったなって」
「なくていいよ求めてないよ。近い暑い」
「ナツくんは右京とらぶらぶしているので、先輩は俺とらぶらぶしましょう」
「いや意味わかんないからちょっと近いなー暑いなー」


 談がどんどん狭くなるのだが、鬼島はそれに構っている暇などないらしい。右京はそれを見ながらナツにすりすりしている。ナツは鬼島の様子を見ながら、食べ終わるまで無事でいられるかなあ、と、考えていた。


 こちらは、海鮮組。
 目の前の網でどんどん貝や魚が焼けていく。おお、と呟くシノ、たまに串で開かない貝をつんつんする満和。そんな満和を撮りまくる有澤。加賀は黙々と魚の下処理をしては串を差し、火の周りに刺していく。


「お兄さん手慣れてるねえ」
「ええ、海辺の出身なものですから。幼い頃によくやらされました」
「加賀さん、そうなんですか」
「そうだよ」


 加賀に微笑まれ、満和がほわっと頬を赤くする。そこへさっと入ってきた有澤はいつになく嫉妬心むき出しだ。


「……有澤さん、自分でできます」
「いや、満和くんがやると食べる場所がどんどん減っていくから気にするな」
「そうですかね」


 身を解して満和の皿にのせていく。


「シノが教えてあげるっ」
「うん」


 こうやるんだよーと、シノが実際にやってみせるが、やはり満和がやると皿の上で事件になる。しょんぼりしてしまった満和にどんどん魚の身を与える有澤。やがて開き直ったようで、それをゆっくり口に入れていた。
 加賀は貝を中心に口へ入れていく。


「加賀さん、右京くんと一緒じゃなくてよかったんですか」


 有澤に尋ねられ、頷く。


「右京は肉がいいらしいので。平気ですよ、なつくんがいれば」
「自分は、満和くんから離れたくないですが」
「右京とは今日明日ずっと一緒にいられますからね」
「そうなんですか……」
「有澤さんは少し満和くん離れしたほうがいいかもしれませんね」
「……」
「ぼくから離れたらいやです」


 満和の、本気か嘘かわからないお人形フェイス。しかし有澤は照れている、加賀は苦笑いしているし、シノはにこにこだし。一気に場が和んで、あれこれがうやむやになった。


 珍しくたくさん食べている満和ににこにこの有澤、つやつやの黒髪を撫でる。


「うまいか」
「はい」
「そうか」


 シノは海鮮の写真を撮り、佐々木に送ってあげた。


「あっち、楽しくやってるみたいですね」
「そう? ならよかった」


 目の前で繰り広げられるナツの大食いショーにくぎ付けの鬼島、返信する佐々木。談はせっせとナツの前に新しい鉄板を用意する。肉を十五枚食べたら一万円、というもので、すでに十枚を完食して十一枚目に入っている。右京はサラダをモリモリ食べているが、片手ではずっとナツを動画で撮りっぱなし。


「おいしい?」


 鬼島に尋ねられてこくこく、幸せそうに頷く。よかったねえと微笑む鬼島。


「談さん、お肉ください」
「はーい」


 切っては食べ、切っては食べ。
 最後一枚は味わうようにのんびりと。


「あーおいしかった」


 制限時間を十五分残し、余裕の完食。更に鬼島の食べ残しもきれいにいただいた。


「夜ご飯はなんでしょうかねえ」


 ふんす、と鼻息荒め。


「そんなナツくんのために食べ放題予約したからたくさん食べてね……」
「なんでそんなげっそりしてるんですか」
「いや隣の油っぽい男のせいで胸やけが」
「いつでもさっぱりしてるって評判なんですけど」
「存在が天ぷらあとの鍋みたいだよ」


 鬼島がおえおえ言いながら、もと来た道を歩いて帰る。行きよりもずいぶんゆっくりした足取りで。
 海鮮組も同じころ、ゆっくりと帰り道を歩いていた。
 有澤と手を繋いでいる満和。ふと、脇道に気付いた。来るときには気づかなかった細い道だ。その奥に真っ赤な鳥居と、小さな社が見える。なぜだかそちらにひどく惹かれた。ふらりと進んでしまいそうになった満和を、有澤の手が引く。


「どうした、満和くん」
「あ……」


 有澤を見上げ、もう一度脇道へ。しかしそこには、朽ちかけた褪せた鳥居と傾いだ小さな社しかなかった。



 午後になり、ナツは右京と談と潮だまりで仲良く遊び、満和は薬を飲んだあとで、有澤と共に車の中で少し休んでいた。鬼島と佐々木は椅子に座って酒盛りを続行、加賀はトランクに座って優雅に何やら読んでいる。


「陵司くん、さっきから熱心に何読んでんの」
「この前、右京のうけがよかったので買おうかと思って」


 覗き見てみれば、様々な形のヘリコプターが載っていた。しかし値段は載っていない。勝手にぱらぱらページを捲ると、豪華客船やら別荘やら土地やら、およそ縁のなさそうなものばかりがある。


「……陵司くん、ヘリ買うの?」
「置き場所、あんまり遠くても困りますよね」
「そ、そうだね?」


 そっとカタログを戻し、見なかったことにした鬼島。ごくごくと酒を飲む。


「佐々木、白豚ちゃんは?」
「……談たちと潮だまりにいるはずですけど」
「いないよ?」


 こちらから見えるそこには、右京と談と、海面から勢いよく出てきたナツしかいない。はぁ、と深く溜息をついた佐々木、酒瓶片手に立ち上がった。


「想像はつくんだよね」


 向かっていった先は、シャワーの脇に備え付けられたトイレの方向。


「……変な事件にならないといいんだけど」


 呟いた鬼島。酒瓶片手に、というところがそこはかとなく怖い。しかし佐々木のことだから大丈夫だろうと勝手に思い、そのままにしておく。


「カズイチ、便所ですか」
「たぶん」


 眠る満和を置いて外に出てきた有澤が妙な顔をする。


「たぶんって」
「トイレのほうには行ったよ。酒瓶片手に、白豚ちゃん探しに」
「それってやばいやつでは」
「さあ……佐々木のことだからうまーく隠すでしょ」
「そういう問題じゃないっす」


 またも走っていった心配性な有澤。


「カズイチてめええ」


 有澤の声が聞こえたような気がするのは、気のせいだということにしておいた。


 一日遊んで夕暮れ時。
 遊び疲れて眠る未成年組は談が運転する車、成年組は加賀が運転する車。それぞれ乗って予約済みの旅館へ向かう。


「酒くさい車ですね。運転手がいるからって飲みすぎですよ」
「寒いー陵司くん、寒いよー」
「においが充満して酔いそうなんで我慢してください」


 遠慮なくすべてのウィンドウを全開にする加賀。未成年組がいるときのような優しさは欠片もない。


「言っておきますけど、部屋別ですからね。今の車に乗っている二組で分かれますよ」
「えー」
「なんで?」
「疲れ切ってるあの子たちが眠れなかったらかわいそうだと思ったので」
「陵司くんのいい人!」
「どうもありがとうございます。ちなみに俺は右京とふたりきりです」
「はあぁ!?」


 夕暮れの道を走る真っ黒のバン。周りの車からやや避けられていることに、加賀も有澤も気づいていない。一方談の車では、未成年組がねこの子のようにまとまってすやすやと眠っていて、談はとても幸せそうだったとか。


 ちなみに旅館では、成年組に代わる代わる邪魔された加賀と右京。おかげで一晩、眠れなかった。

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