クリスマスプレゼントを買いに行く成年組

 
鬼島、加賀、有澤、佐々木がクリスマスプレゼントを買いに行くお話。
佐々木が相変わらず鬼島大好き。
最初、ちょっと下いネタも出てきますのでご注意を。





「ちょっとー、プレゼントどうするの」
「シノちゃんにはオーダーメイドの靴とバッグです。もう発注済です」
「佐々木はそういうとこ、抜け目ないよね!」
「優志朗先輩にもプレゼントありますよ」
「いや、そういうの大丈夫だから」
「譲一朗にもあるよ」
「……どうせろくでもねぇもんなんだろ」
「譲一朗の譲一朗に合わせた特注バイブ」
「誰が喜ぶんだよ」
「満和くん?」
「喜ばねぇだろ」
「いいじゃん、二輪差しもできるよ」
「いや無理だぞ」
「そこはあーりんのテク次第じゃないの」
「じゃあ鬼島先輩はナツさんにできるんですか」
「そんな野蛮な事やるわけないじゃない……何言ってんの、やだぁ、けだもの!」
「……ッ……ッ……」
「大丈夫ですか、有澤さん」
「平気です……ありがとうございます、加賀さん」


 深夜二時、明らかに仕事帰りのスーツ姿の鬼島、有澤、佐々木、加賀が乗っているSUV車が道を走る。もう明後日はクリスマス。佐々木以外の三人は仕事に追われてまだプレゼントを用意していない。自分の手にとって実際の様子を見て、可愛い恋人が喜ぶかどうかじっくり考えたかったのである。

 有澤が運転する車は、ある一軒のショップ駐車場へ入った。
 雨の中を走って店先へ、意外に軽いドアを押しあけると中は幾つものランプが燈され、うすぼんやりと照らされていた。見た目は歪んだ洋館、中は、高い高い天井の吹き抜け二階建てで、所狭しと物が並んでいる。足元から、まさしく天井まで。どこかの童話に出て来そうな雰囲気。加賀の友人がやっているというセレクトショップらしいが、何をどういう基準で選んでいるのかさっぱりわからない。着物、アンティークドレス、靴、かばん、本、置き物から食器、時計、家具……新旧あらゆるものが並んでいる。かなり広い店内だ。犬かと思ったら置き物だった。人の気配はない。


「結構いろいろなものがあるので、気に入る物があればいいんですけど」


 そう言った加賀はすでに棚へ手を伸ばしており、ただ見上げていた有澤や鬼島も店内へ足を踏み入れ、佐々木は単純にふらりふらり。


「ねえ、満和くんに何買うの」
「なんですかね……今ちょっと……喧嘩中なんで、ここで外すと本格的にまずいんです……」
「あらあら」
「あらあらじゃないですよ。元はと言えば鬼島先輩とカズイチのせいなんですよ!」


 十二月初頭、東道会のブロック年末総会があった。全国ではなく、鬼島や有澤が住む地域周辺の人間のみの総会である。それが終わると食事会、そして二次会三次会四次会と続き、鬼島は有澤にどんどん飲ませた。最終的に辿りついたのは佐々木が経営する某風俗店。そこで佐々木が待ち構えており、きれいなお兄さんお姉さんを侍らせてさらに飲ませた。
 そしてその動画を、鬼島が満和に見せたのである。
「普段ぼくにはいろいろ言うのに、ご自分はずいぶん自由なんですね」
 と冷ややかな目、以来、夜寝るのもばらばら、触らせてもらえず、口を聞いてもらえないこともある。初めて会ったまったくの他人のような態度を取られ続けているのだ。相当精神的に辛い。
 根源である鬼島は「大変ね」と他人事のような口調。佐々木もなんとも思っていないようだ。悪魔のような二人に溜息をつきつつ、棚を見る。
 満和はカメラ、パズル、読書、音楽が好きで、身に着けるものや食べ物にはほとんど無頓着。身体が弱いので、相当気を使わなければならない部分なのだが、そういう気を使うのは有澤と傍付きの北山の役目。
 下手な服や食べ物ではアレルギーが出る。
 では、食器などどうだろう。
 きょろりと見回し、家具類と共に置いてある奥の方へ。ずらりと並ぶ色形も賑やかな食器。いつもお茶を飲んでいる満和にカップをあげるのもいいかもしれないし、おやつを食べる時の皿をあげるのもいいかもしれない。体調が悪い時でも、好きな食器があれば多少なりとも食が進むかもしれない。


 有澤が真剣に物色している手前、装飾品のあたりを見ている鬼島。ナツは食以外の欲がほとんどないので、何が欲しいのか全く読めない。去年はコートをあげたので、今年は何か装飾品を、と考えている。指輪はまだ早いだろうし、ブレスレットやネックレスをつける感じでもない。ガラスのケースの中には宝石で彩られた高級そうな時計などがおさめられていた。そういうのに興味があるようにも思えない。
 さすがの鬼島も眉間に皺を寄せている。
 ふと、見上げた棚。少々高い場所に、木の足の模型に嵌められた細い鎖が見えた。どうやらアンクレットのようだ。びっしり並ぶ木の足が、なんだかまるでミイラのようにも見え、この灯りのなかでは随分不気味だ。しかし控え目なきらめきが、ナツのイメージによく合うような気がする。


「アンクレットか……まあ、ちょうどいいかな」


 所有の証、とも言われるアンクレット。左右で意味があると聞いたことがある。鬼島は薄く笑みを浮かべた。ナツが知らない場所で主張させるのも悪くない。


 加賀は、いくつかの候補の間で迷っていた。
 仕事の合間にここへ来て、膨大な物を幾つも手に取り迷い、幅を随分狭めた。前に並ぶのは財布、古い本、そしてピアス。右京にピアスホールはないけれど、もし開けたら、と考えるとよく似合う。少し開けてほしい思いがあったりもする。そのピアスは新品で、ブラックオニキスが使われた小さなトップが右京の目や黒髪に馴染むのではないかと考えているのだ。
 加賀は顎の辺りへ手を当て、微動だにせず考えている。右京が貰ったことで、興味もないのにホールを作らねばと思ったら嫌だし、財布は好みがあるし、本はどうだろう。読めるだろうか。
 うんうん唸る。どれもそこそこ良いお値段するのだ。というか、ここの店内にあるものはどれも一定以上の値段である。
 しかし、迷うならば全部買ってしまえ。と加賀は思った。いつものことだ。


 結局、有澤は満和へ食器のセットを買った。真っ白の陶器シリーズ、カップが大きめでお茶がたくさん入りそうだったのが一番の理由。皿はさまざまな形や色があり、満和のイメージでオーバルの小さめ、色は白にした。
鬼島は細身のブルーがかった宝石がちりばめられたアンクレット。ナツには安いよと言っておかなければがたがたぶるぶるしてしまうような代物である。
今年一番高額の買い物だったなあ、と呟いた鬼島の横にいる加賀は、財布と本とピアス。どれもシンプルな藍色の包装紙で包まれ、茶色の紙袋に入れられている。店の名前はどこにも書いていない。


「さて、明日の夜に枕元へ置いておかないと」
「寝静まってからですね」
「四人集まるとなかなか寝ないから、いつになるかな」
「酒飲みながら待ってればいいでしょ」


 明日、クリスマスイブは全員仕事である。クリスマス当日、鬼島は礼拝、有澤加賀佐々木は仕事。
 すでに学校が休みの未成年組が一緒に過ごしたいと希望してきたため、鬼島の家で談と一緒に過ごすことになっている。こういう年末は何かと騒動が起こりやすい。東道会はここ数年目立った抗争もなく穏やかだが、何が起きるかわからない。ので、外に行かれるよりも家で固まって過ごしてもらえた方が安心だった。
 四人が、それぞれで過ごすのではなくころころとまとまって賑やかにいてくれるほうがいい。


「談も、どうせ暇だからって言ってくれたからお願いしちゃった」
「いてくれると安心ですね」


 車に乗って、動き始めたのはすでに午前五時。実に三時間悩み続けた大人たちは、ようやく家に帰る道を進み始めた。


「今日の仕事が辛くなるね」
「眠かったらいつでも言ってください。膝貸します」
「うん、いらない」
「加賀さんは大丈夫ですか」
「俺は普段からこういう時間まで働いていることもありますから」
「そうですか……お忙しい」
「いえ」
「陵司くんにだったらいつでも膝貸すよ」
「鬼島さん、結構です」

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