動物園へ

 
『お友だち(偽)』鬼島とナツ
『拾った子の癖は』加賀と右京
『有澤さんと高牧くん』有澤と満和
『佐々木さんの恋人』佐々木とシノ






 くりくりきらきら、宝石みたいに輝いている真っ黒い大きな目。ふわふわした柔らかい黄金色の毛並み。恐る恐る抱っこしたナツは、その目でじいっと見つめられ、身体のわりに大きな肉球つきの前脚で肩の辺りなどをぽふぽふされ、愛らしさに顔を蕩けさせている。


「かわいい……っ」


 大きな声はだめですよ、と前もって担当者に言われていたため、小声で何度も同じ言葉を口にする。そんなナツの様子を、鬼島は少し離れた場所に立って見つめている。その足元にも小さなライオンの赤ちゃんがみぃみぃとじゃれていた。
 それを掬い上げたのは、右京。腕に抱いてソファに座っているナツの隣へ。


「柔らかいね」
「そうだね。声も、とっても可愛い」


 なでてあげると目を細め、もっともっとと言うように頭を前にする。右京が抱いている子は右京の胸にごりごり頭をすりつけたり、かざされた手を両手でキャッチして口に入れてじゃれたり。あむあむされる感触に目を細めた右京の表情を、加賀はカメラでぬかりなく撮影している。もちろんナツの姿も、あちら側のソファにいるシノと佐々木の姿も。


「つれて帰りたい……」
「お父さんに相談してみたら? 良いよって言いそうだけど」
「聞いてみようかな」


 佐々木の膝とシノの膝とをよたよたしながら行ったり来たりしている子ライオン。どちらかといえばシノの膝のほうが好みのようで、やがてくうくう眠り始めた。その様子にでれでれするシノと、肩を抱いてくっついたままシノの顔を見ている佐々木。


「満和さんも来られたら良かったのに」
「仕方ないね。アレルギーだから」



 今日は、いつものメンバーで動物園に来ている。
 発端はおとといの晩。ナツ、満和、右京、シノの未成年組が真剣に見ていたテレビ番組。動物園の特集をやっていて、その中で「生まれたばかりの動物の赤ちゃん」というのがあった。


「かわいいー! 撫で撫でしてみたい!」
「かわいいね」
「うん」
「シノ、行ってみたい!」


 ぴかぴかの八つの目に見つめられて、成年組が何かを言えるはずもない。
 そして電話をかけまくり、赤ちゃんと触れ合える催しをやっているという動物園の、触れ合い予約を取ってやってきたのだ。道中は有澤が運転、助手席は加賀。一緒にナビを見つつ初めての道も順調走行。後部座席では眠る満和と右京、ずっと何かを食べているナツとシノ、それを見ている鬼島と佐々木。

 しかしやってきてみて気付いた。
 触れ合えるのは猫科の動物ばかりで、アレルギーを持っている満和は一切触れることが出来ない。明らかにしょんぼりしてしまった満和を励ますように、係りの人が赤ちゃんが生まれた動物のマップを手書きで作って渡してくれた。


「高牧くん、残念だったな」


 まだしょんぼり気味の満和と手を繋ぎ、片手に地図を持ってよく見ながら園内を歩く。夏休みだからか人が多いが、顔がいかつく身体の大きい有澤は避けてもらえるのでありがたい。日差しが強いので満和は薄手の長袖を着て、つばが広めの帽子を被っている。


「熊の赤ちゃんがいるらしい」
「熊のあかちゃん……」


 透明の板の向こうに、ころころ遊んでいる黒いもふもふ。それを見て満和の目がぴかぴかする。じっと見つめて、それから有澤を見上げた。


「かわいい」
「そうだな」
「ころころしてる」


 よたよた四本足で歩き回り、たまにぺしょりと転ぶ。そんな姿も可愛くて満和が微笑む。ちょっと元気が出たらしい様子に、有澤はほっと息を吐いた。


「先生、見て、熊の赤ちゃん」
「そうだね。小さいなー」
「とってもかわいいよ」


 満和の隣に立ったのは、どこかで見たことのある、少年。有澤がじっと見つめていたら保護者のほうが近くにやってきた。褐色の肌に、凛々しく濃い顔つき、黒縁眼鏡をかけて身体は筋骨隆々としている。
 保護者を見て、誰だったかようやく思い当たった。


「七尾さん、でしたよね」
「あ、えー……あっ! 有澤さんでしたか。こんにちは」
「偶然ですね……もしかして、おとといの夜に観ました?」
「そちらも?」
「そうなんです」


 帽子を被ってもわかる丸っこい頭がふたつ並んで、どちらもきらきらと目を輝かせて食い入るように動物の赤ちゃんに見入っている。


「元気そうですね、悟志くん」


 満和の隣にいる少年も、満和と同じで身体も皮膚もなにもかもが弱いそう。七尾はこくりと頷き、おかげさまで、と言う。


「最近はひとりでプールに行っているみたいです。満和くんは?」
「暑さのせいか熱を出すことが多くて……今日は久しぶりの外出です」
「そうなんですか……」


 熊を見ながらきちんと水分補給をする満和。それを見て隣の少年も、水筒を取り出して飲んでいた。


「あ、満和くんだったんだ」
「悟志くん……ごめん、全然気付かなかった」
「お互い様」


 そこでようやく目が合ったふたり。びっくりしたように目をふたりして見開く。


「名沖くん、気付いてなかったんだね」
「うん」


 苦笑いの七尾に照れたような顔をする名沖悟志。満和と同じ年齢、同じような体格。顔つきもどことなく似ているような似ていないような、そんな感じだ。兄弟のように見えなくも無い。
 学校は違うけれど、肌が弱い人でも入れるというプールで出会った名沖と満和。肌が弱い、身体が弱いなどなどの共通点があり、七尾と有澤もたまに一緒に行ったりして交流を深めていた。


「高牧くんは、ちらりとも見なかったからそうかなと思ったけど」
「気付かなかった……熊に必死で」


 えへ、と笑った満和が可愛くて、思わず真顔になる有澤。満和はそれに気付かず、名沖の背中に負われている白いデイパックの小さなアライグマのぬいぐるみに気付いた。それを見て可愛いと目を輝かせた満和に、ここにも赤ちゃんがいたよ、と教えてくれる。つい先ほど買ったばかりらしい。


「有澤さん」


 有澤の手許の地図にも、確かにアライグマゾーンが載っている。行ってみようか、と言うと目を輝かせてこくこく頷いた。


「次は、ヒョウの赤ちゃん行こ、先生」
「そうだね。行こうか」
「では、また」
「ばいばい」


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