夏休みの一夜

 
ナツ
右京(うきょう)
満和(みわ)
シノ

四人でお泊り夏休み





「なつ、どこに寝る?」
「おれどこでもいいよ! 寝相はいいほう」
「満和くんは?」
「ぼくも、どこでもいい」
「シノすみっこがいいー!」
「じゃあぼく、なつ、満和くん、シノちゃんでいいかな」
「はーい」


 鬼島邸の一室、広々した和室に敷かれた四組のふわふわ二枚重ねの敷き布団、その上には夏掛けのパステルカラーのタオルケットが丁寧に畳まれて置いてある。部屋にいるのは、ナツ、満和、右京、シノ。畳の上に車座になり、現在トランプでババ抜き真っ最中。
 ナツは黒いタンクトップに通気性の良さそうな綿の灰色長ズボンで、隣の満和のカードを裏側から何枚かつんつんしたあと、決めた一枚を引いた。回ってきたのはハートの8。クローバーの8とともに抜き出して場に捨てる。


「今頃居間でみんなでお酒飲んでるのかな」
「だろうね」


 ナツの言葉を受けた満和はちりめんの花火柄の浴衣姿で、藍色の帯を締めている。隣の右京の手札からさっとカードを引いた。ダイヤのキング。同じ札が無かったために、そのまま収めた。


「それにしては静か、なような気もするけど」
「悪い相談でもしてる、とか」


 満和の言葉に答えた、薄手の白いパジャマを身に着けた右京。シノの手から慎重に選んで一枚を引く。そこには不気味に笑った道化師がいて、しかし表情ひとつ変えることなくそっと加えた。


「また何か変なこと考えてるかも」
「変なことってなぁに?」


 薄いピンクのホルターネックミニワンピース姿のシノは、大きな目をくりくりさせてきょとんとした顔をしながら右京を見た。それから、ミルキーピンクに塗られた爪を備えた指で無頓着にナツの手札を引いた。ハートのクイーン。手許に赤と黒と、二枚の女王様が来た。それを真ん中に置く。


「シノいちばーん!」
「シノちゃんは本当にこういうカードゲームに強いねえ」
「ふふー」


 にこにこ嬉しそうに笑い、むかって一番右の布団の上へ寝転がる。枕が向こう側なので、シノはそれを目指してごろんと横になった。もとから短い、太もも半ばまでしかないようなスカート丈。めくれて下着が見えそうだ。
 さっと目を逸らした満和のカードを引き、ナツの手札は残り一枚。しかしそこからジョーカーがぐるぐる回る展開となり、却ってシノが不思議がるほど終らない。


「おーわりー」


 ナツが二番目、満和と右京が差し向かいで札をやりとりするのを尻目に、シノと同じくふかふか布団へ横たわる。シノがごろんと寄って来たので、洗いたてふわふわの茶色の髪を撫でた。普段はミルクティー色のロングウィッグをつけていることが多いが、今はそれを外して地のボブヘア。お化粧もしていないがつるつるぴかぴかの白い肌に可愛らしくもかっこよくも見える顔つき。


「ナツさんにぎゅー」


 抱きついてきたので、ナツも抱き返す。普段接触している鬼島などと異なり、細くて柔らか、成熟していない身体つき。温かくていい匂いがするのは、上がってから身体に塗っていたボディークリームだろう。

 四人で一緒に風呂に入るとき、シノが脱ぐのを見て満和が真っ赤になっていた。右京が面白がってシノに絡み付くと、破廉恥、と呟いてそそくさと先に浴室へと入っていってしまって、シノが「満和さんかわいいー待ってー」と言ってはやばやと服を脱ぎ捨て、そのあとを追いかけていった。脱衣所に残された、ナツと右京。


「……脱がせてあげようか」


 妖しい笑みを浮かべてするりと頬を撫でられ、先ほどまでほのぼのしていたナツが一気に緊張する。満和に負けず劣らず顔を赤くし、激しく首を横に振る。


「今日はたくさん汗かいたから、ちゃんと洗わないと」


 右京の顔が首の辺りに近付き、なつの匂いがする、と言う。それは、日焼けした夏の匂いなのか、それとも体臭のことなのか、よくわからなかった。風呂に入る前からすでに茹で上がりそうなナツに微笑んで離れ、服を脱いだ右京。へろへろとそのあとに続き、結局三人が仲良くおさまっている浴槽に、身体を洗い終えてからしおしおと浸かった。


「シノちゃんも右京くんも、肌が真っ白できれい」
「満和さんもきれいだよ」
「んー……でも、こういうとこは、色が変だから」


 お湯に沈めていた腕を持ち上げると、肘の内側が黒ずんでいる。首のあたりも、膝の裏も、指の関節部分なども、皮膚が薄い場所は大体色が違った。皮膚の感じも少々異なるようだ。ナツも、よくよく満和の身体を見るのは初めてだった。


「よく痒くなって、今でもたまにあるんだけど」


 治療薬の影響で色素が沈着しちゃったんだよね、あんまり気にすることじゃないかもしれないけど、と言いつつ笑う。シノに「痛かった?」と心配そうに聞かれて「すぐ破けて血が出たりしたから」と答えた。泣きそうな顔で、肘の内側を撫でるシノ。


「ナツは、日焼けがすごいね」
「いつの間にかね」


 満和の肩に比べて焼けている。今日は昼を食べてから今まで、有澤邸の広い庭で水風船をぶつけ合う水風船合戦をして遊んでいた。満和はカメラ担当で、右京とシノと。ナツ以外はきちんと日焼け止めを塗ったり長袖を着たりしていたが、ナツはタンクトップ姿で参戦。濡れていくさまを、満和の後ろから鬼島が一眼レフで撮っていたことには気付いていなかった。

 よく遊んでよく笑った一日。


「わー、きれいだね!」


 シノが声を上げる。
 浴室は壁の一部がガラス張りとなっていて、そこから庭が見えるようになっている。ところどころに石灯籠が備えられ、石橋のかかった池や夕暮れの景色が幽玄な雰囲気をかもし出していた。もうすぐ星も見えるだろう。


「今日一日、楽しかったね」
「うんっ! すっごく!」


 満和とシノは並んでそちらを眺めている。
 右京は興味がないようで、浴槽の縁へ両腕をのせ、そこへ顎をのせてのんびり。滑らかな背中の肌、細く儚いような印象と漂う色気がなんともいえない。ナツはちらちら見ていたが、やがて傍に近付いた。


「ウキョウくん、ここになんか痕がある」
「あと?」
「うん。この、首のとこ」


 ナツの指に首を触れられ、一瞬くすぐったそうに肩をすくめた。触ったのはうなじの辺り、普段は髪で隠れるような場所。髪を洗ったあとなので濡れていて、襟足がぺったりとしたので見えた。


「長細い痕がある」
「……なんだろ、昔ぶつけたのかな。なつがこんなとこにも気付いてくれるなんて、すごく嬉しい」


 右京はするりとナツの指に指を絡め、そこに口付け。ぼふんと真っ赤になったナツに身を寄せ、猫のような目でわざと下から覗き込む。


「なつの肌はどこもきれいだね」


 湯の中で滑る手。腹の辺りを撫でたり、尻のほうまで回ってみたり、そうなると身体が密着して、胸が触れ合う。ナツが身体を震わせると、右京の声が囁いた。


「ふたりに気付かれちゃうよ」
「ん……」


 後ろでお話をしている親友とかわいい子。なんだかとっても悪いことをしているような気分になって、じんわり、こみあげてきた涙。ふふっと笑った右京は、その顔もかわいい、と言って、顎の辺りに口付ける。


「なつ……」


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