当日2

「わ……すごい……」


 そこは、異世界のようだった。
 暗いくらい森のような装飾があちこちに施され、蔦が絡んでいたり、倒木のようなものがあったり。会場の灯りはおどろおどろしい緑や青、かと思えば赤くなったり、オレンジ色になったり。立食形式でテーブルが並べられて多くの料理が並んでいる。壁際では肉をその場で焼いていたり、寿司を握っていたり。ナツなどは会場の雰囲気よりも料理で、満和は雰囲気が怖かったのかナツに身を寄せ腕を掴んだ。シノは想像よりも会場にいる人数が多いことに驚いていて、右京は見た目無表情ながら、その目は忙しく加賀を探している。

 ざわざわと人の声がしている会場。
 各自衣装に身を包んだ人、人、人。ざっと二百人ほどはいそうである。すでに飲み物を片手に談笑していたり、写真を撮っていたり。その中にはテレビで見たような顔もあり、どうやら様々な業界の人が招待されているらしかった。


「みなさん、とっても可愛らしいですね」


 目の前に現れたのは談だった。金髪からふわふわした耳が覗き、ぼろぼろの白黒ボーダー長袖Tシャツ。しかし胸元がざっくりV字にカットされているのと、裾が斜めに切り上げられているのとでとてもセクシーだ。ほっそりした腰を曝し、へそには雫形のピアスが光る。下もゆるめのダメージデニムを太い革のベルトで留めて黒ブーツ。首には赤い首輪をつけていて、どうしているのか口からは鋭い犬歯、目の周りは黒いアイラインで囲まれてばさばさのつけまつげもつけていて、普段と違う談。


「談さんも素敵です」
「尻尾もありますよ」


 くるりと後ろを向くと、デニムからふさふさの尻尾が垂れている。


「ナツさんはバニーボーイですね。健康的なのにいやらしくてとても素敵です」
「食べたらお腹が出てばれることに今気付きました……早々に失敗……」


 悲しそうな顔をするナツの頭に生えた兎耳も心なしかしんなりしている。ナツは首周りに白い襟をつけ小さな蝶ネクタイ、裸の上半身に短い短い、胸だけを隠すような黒ベストに下半身はぴちぴちのエナメルパンツ、兎の足を摸したふわふわ靴。手首周りにも袖口を摸したものをつけている。確かにお腹が膨れたら見えてしまう。


「兎さんは狼に食べられる運命ですからね」


 にっこり笑った談、ナツの顎を指で掴んで上を向かせ、顔を近づける。


「とってもおいしそうな兎さん」


 端正な顔に妖しく微笑まれ、ぼむっと真っ赤になる。まるでキスでもするように顔が近付いてきて――


「狼さんを狩るのは狩人の役目だよねぇ」


 そんな声がして、談がいたずらがばれた子どものように笑った。


「まだ何もしていません」


 ぱっと離れた談の向こう、白い薄汚れたシャツにくたびれたような色の浅いデニム、一枚革を紐で固定したようなブーツ、肩に本物かと思うような猟銃を掛けて、口元だけで笑う。ぼさぼさの髪は普段と違って前髪が右わけにされており、片目に黒いアイパッチをしている。隠されていない方の鋭い目を細めた鬼島は、ナツを上から下まで舐めるように見まわした。


「可愛いね、ナツくん」
「きききききしまさ」


 大好きな鬼島の顔が丸出しという辺りにどきどきしてしまうナツ、先ほど以上に真っ赤になり、どうしたらいいかわからないとでもいう風にぷるぷるしている。ばっと両腕を広げられ、久しぶりということもあってふらふら近付き、抱きつく。


「まさかナツくんがこんなえっちな恰好するとは思わなかったよ。むちむちのお尻もこんなに強調して」


 抱きしめられつつ、お尻を大きな両手が揉みしだく。ひゃっと腕の中で飛び跳ねるが、鬼島は動かなかった。


「ナツくん、どうしてこの衣装にしたの」
「えと……満和と一緒に街、歩いてたら、見つけて」
「ふぅん。お耳がふわふわで素敵ねえ」
「安かったんです」
「そうなんだ。あ、ナツくんが好きなローストビーフがあっちに」
「お肉!」


 目がきらきら、すっかりご飯モードに入ったナツ。鬼島に手を引かれてうきうきとそちらへ。
 見送った三人、満和は今度は右京の腕にぎゅうと身を寄せている。
 シノは興味深そうにあっちを見たりこっちを見たり、していたら、横からにゅっとグラスが差し出された。毒々しいほど真っ赤な液体に満たされた背の高いグラス。


「可愛い吸血鬼ちゃん、一緒に血でも飲みませんか」
「おじちゃん……かっっっこいい……っ」


 黄色っぽい金髪をすべて後ろに撫でつけ、何がどうなっているのかとんがり耳、元来の色の白さに、おそらくカラーコンタクトを入れた青い目、その身体は誰もが想像するだろうスタンダードな衣装に包まれている。クラシックな白シャツにボウタイ、黒いジャケット、同じスラックス、磨き上げられた革靴に、裏地が真っ赤な立ち襟のマント。
 佐々木の顔に違和感なく似合う吸血鬼スタイル。シノはすでにめろめろといった様子で腕にぎゅうっと抱きつく。


「まさかお揃いになるとは」


 くりくりうるうるお目目で見上げてくるシノの頭を撫で撫で、佐々木が呟く。シノはチェックの透けているふわふわシフォンのホルターネックブラに、むっちり具合の程良いお腹、腰回りにブラと同じ素材のふんわりミニスカートをはき、その下にはやはり同じチェックのフルバックショーツ、黒のソックスガーターに濃いピンクと白のしましまニーハイソックス、黒いエナメルのおでこヒール。手首にはリボンを巻いて、背中に生えるちっちゃなこうもり羽はブラに付属している。黒髪ボブの下の目、周りにはラメが煌めき、レースのようなつけまつげに血をイメージしたのか真っ赤なルージュ。


「シノちゃん、最高に可愛い」
「えへへーおじちゃん、ほんとうにかっこいいよお」


 佐々木はグラスの中身を口に含むと、ふんわりとマントでシノを隠して口づける。口の中の液体を少しずつ移してあげると、ん、と声を洩らしながらゆっくり飲み下した。


「……くらんべりー?」
「そうだよ。血なわけないでしょ」
「もっと飲みたい」


 えっちな顔つきになったシノをさりげなく暗がりの方へ誘導する佐々木。さて残されたのは右京と満和の二人組。



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