当日1

 翌日、午後五時半と指定された時間の一時間前に上戸ホテルへとやってきた未成年組。シノの家の車で送ってもらい、手に手に衣装を入れた袋を持参している。きらびやかな装飾の、いかにも高級そうなホテルにナツと満和は気後れ、右京とシノがずんずん進んでフロントへ。招待状を見せるとすぐに、若い男性が案内してくれた。大広間は別棟にあるのだそうだ。


「お着替えのお部屋はこちらとなっております」


 折り目正しく礼をしながら招かれた部屋。広さは十分、もともとそういう専用の部屋のようで、鏡台やハンガー、ハンガーラック、コインが戻ってくるタイプのロッカー、洗面所、お手洗いなど、必要な物はすべて揃っている。


「さて、準備しましょー」


 シノが手に持っていたのはメイクセット。大きなボックスを開けるとびっしり並ぶさまざまな道具。どれも見たことが無いようなものばかりで、ナツや満和はほうっと声を上げる。右京はさらりと服を脱ぎ、全身が映る姿見でさりげなく贅肉チェック。シノが採寸したときと同じで、痩せてはいないと思うんだけど、と、誰にともなく呟いた。
 一応ロッカーに入れておいた方がいいかと、近付いた右京。並ぶ白い扉のひとつが微かに開いている。それに気付いて手を掛け、中を覗く。すると――


「満和くん」
「はい」
「これ、満和くんへ、って書いてある」


 右京が掲げた袋。見覚えのないものだ。しかしそのカードの字には覚えがあった。意外ときれいな、きっちり並んだ字。紛れもなく有澤が書いた字で。


「……?」


 受け取り、口が縛られた赤い袋を開ける。すると中に入った何やらの上にまたカード。そこには「ぜひこれを」と書いてある。嫌な予感がしながら、おそるおそる手に取ってみると――


「……やっぱり」
「おお……」
「これはすごい」


 右京、ナツが、机に広げられた中身を見て声を漏らす。


「こんなの着られない。ぼくはシーツおばけがいい」


 袋に戻そうとした手を掴んで止めたのは、シノ。にっこり笑って「せっかくだから」と、強引に満和の服を剥く。


「シノちゃん怖い」
「今日は特別なのです。さあ満和さん、脱ぎ脱ぎしましょうねえ」


 むふふと笑ったシノ、涙目の満和をすっぽんぽんに。こういう辺りは佐々木に似てるな、と思いつつ、自分も着替える右京。満和をちらちら見ながら困った顔のナツ。やがて満和は何もかもを諦めたらしく、シノに身を委ねてメイクを施される。満和のために揃えたという、専用のメイクセットで。


「でも結局お肌に刺激があるから、うすーくにするね」
「はい……」


 魂抜け気味の満和、ナツは苦笑い。満和を終えたシノは自分も着替えて顔を整え、先に服を着た右京を座らせ鏡を覗き込む。


「……右京さん、採寸のときより痩せましたね」
「えっ、そうかな」
「ズボンゆるゆるですよ」
「あっ」
「ずり落ちたりはしないと思いますけど気を付けてくださいね」
「がんばる」


 そんな会話をするふたりの後ろで着替えたナツ。しかし、鏡越しにその姿を見たふたりは思わず振り返った。


「なななななつそのかっこうすごい」
「えっ」
「ナツさんかわいい」
「シノくんのほうがかわいいよ」


 うっすらついた腹筋が剥き出し、健康的な上半身に羽織っただけのジレ、ぴちぴちのエナメルパンツが妙に色っぽいナツの恰好。頭にもきちんと耳を装着。黒いもふもふと黒髪の境目がわからず、まるで本当に生えているかのようだ。


「今日はどんな料理があるのかなあ」


 むふむふ、ご飯を楽しみにしているナツをしばらく見ていたふたりだったが、はっとしてメイクを再開した。


「そういえば、おじさんたちは仮装するのかな」
「鬼島さんが仮装したらかっこいいだろうなー」
「おじちゃんが仮装……なんかぴんとこない……しなさそう」
「確かに」


 満和はすみっこで、剥き出しの膝を抱えている。普段はさらされない肌が大胆に露わになっていて、その肩に触れたナツの手の温かさに顔を上げた。


「満和、大丈夫だって。かわいいよ」
「……ナツ……でも、恥ずかしいよ」
「今日はお化けも一緒にいる日だから大丈夫」


 よくわからない励まし。けれど満和は小さく頷く。

 全員が完成したのは、六時二十五分。控室を出て、すぐ脇にある大広間のドアを開けた。



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