はろぅいんぱーてぃ!

 
『お友だち(偽)』鬼島ナツ
『拾った子の癖は』加賀右京
『佐々木さんの恋人』佐々木シノ
『有澤さんと高牧くん』有澤と満和ちょろっと北山
『無題の関係』蓬莱と談 ちょろっと





 十月初め。
 ナツのアパートにひらりと舞い込んだ一通の封書。紫色の封筒に「納谷夏輔様」と黄色のインク、筆文字で丁寧に縦書きされてある。その筆跡には、確かに見覚えがあるような気がした。けれどどこで見ただろうか。
 部屋に入って靴を脱ぎながら、封筒を開ける。どのようなものでも開けるとき、いつもほんの少しドキドキする。誰かから貰った物ならばなおさら。


「……招待状……?」


『招待状 納谷夏輔様
 来る十月三十一日 午後六時半、上戸ホテル大広間『春』にてお待ちしております。その際はどうか仮装してのご参加を宜しくお願い致します。着替えの部屋はホテル内にご用意しております。
 なお、当日まで仮装の内容については秘密厳守する旨、ご了解くださいませ』


 差出人の名前はない。表も裏も、同じように紫色。そこに黄色の文字が綴られているだけ。今はまだ十月の最初なので、準備には十分間に合う。さて何の仮装をしようかといろいろ考えるナツ。そこへ携帯電話が鳴った。まだ鞄の中に入れっぱなしだったそれを手に取り、出る。


「もしもし、ナツ? 封筒届いた?」
「うん。満和、何か知ってる?」


 満和に尋ねるも、ううん、と声が聞こえた。


「わからない。ナツなら知ってるかと思ったんだけど」
「うーん? 多分誰かが決めたことだと思う、けど、誰かは解らないよ」
「だよね……三十一日、一緒に行こう?」
「うん。いいよ」


 そんな会話を交わして、ついでにどんな仮装をするかと満和に尋ねる。すると満和は「シーツに穴開けて被る」とだけ。さすが省エネ、と頷き、電話を切った。秋になると今度は低気圧やら空気の乾燥やら大変そうだが、暑さが無い夏の終わりの今はだいぶ楽なよう。満和が元気な時期は限られているので、この時期にたくさん遊んでたくさん食べておかなければならない。
 明日一緒にケーキを食べようと約束をして、電話を切った。
 ついでに仮装のお話もしようっと。
 そう決めたナツ、手紙を大切にテレビの横に置き、お風呂の支度へ。


 一方その頃、右京もソファの上にて首を傾げていた。オレンジ色の封筒、便箋に真っ黒の筆文字でナツと同じ文章を受け取っている。多分、鬼島たちが考えたことだろうと思っているが、なぜわざわざホテルでやるのかがわからなかった。普段のように八人だけでなく、他の客もたくさん来るのだろうか。よくわからない。写真を撮って加賀にメッセージを送ったものの、返事は「秘密」とでも言いたげな顔文字で。
 仮装か、と呟いて、反対方向へ首を傾げた。こういう行事に参加するのも初めてだ。仮装って、どの程度やればいいのだろう。そこからもうわからない。こういうことに詳しそうな人、と考えたところでふと思い立った。電話番号を呼び出し、繋いでみる。


「もしもーし、右京さんっ?」


 華やかな可愛らしい声。ころころと丸いそれが、矢継ぎ早に最近のことを尋ねてくる。ひとつひとつに丁寧に答えた右京は、ところで、と、話題を振った。仮装とは何か、である。


「あ、右京さんも受け取ったの、お手紙。シノももらったよぉ」
「うん……仮装って何? どの程度やるもの?」
「自由なんじゃないかなあ。満和さん辺りはシーツかぶっただけ、とかやりそうだし……右京さんは猫ちゃんとか似合うと思うにゃー」
「シノちゃんは何するの」
「シノはぁ、ちょっぴりえっちなの!」
「……」
「右京さん、悩んでるならシノが揃えてもいい? 当日、ホテルでお着替えとメイクもしてあげるー。右京さんに似合うの考えるの楽しいから」
「お願いできたらうれしい」
「任せてっ! 当日まで痩せたり太ったりしないでねえ」
「……善処する」


 早々に問題が解決した右京。一番難しい「痩せない」ということに向けて、さっそく晩ご飯を増量する計画を巡らせるのであった。





 時間は飛んで、十月三十日、深夜。有澤邸の一室。
 酒瓶を転がしながら作業をしている四人の男。ひとりは白シャツに黒スラックス黒縁眼鏡、銜えたばこで前髪を払いながら手を動かす。その隣にはジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めた顎髭ダンディ。最近伸ばし始めて形を整えているが、とても似合っている。


「ナツくんたちはどんなかっこでくるのかなー楽しみだなあ。秘密厳守って書いたの守ってくれてて、全然教えてくれないんだよね」
「そうですね。鬼島さんは、何かしないんですか」
「気が向いたらするー。陵司くんは?」
「なんか、シノちゃんが任せてくださいって」
「へー。白豚ちゃん、何考えてるんだろう。あーりんは?」


 話を振られて顔を上げる、少し離れてはいるが向かいにいる男。大きくはだけた着物の胸元からは隆々とした胸筋が見え、更には腹筋の半ばほどまで見えている。あぐらをかいてもいるので、ごつごつとした太い脚もよく見えている。そして同じく銜えたばこ。可愛いかわいい満和がいなければこの体たらく。さらには酒も瓶ごと煽る。


「自分は北山が」
「あー。佐々木は……シノちゃんか」
「はい」


 有澤の向こうで作業中、ネイビーのシャツを腕半ばまで捲り、チノパンを穿いている白髪毛先に淡い紫メッシュの男。ときどき一升瓶の首を掴んで口をつける。鋭い目が据わり気味なのは、新幹線と車とを乗り継いだ出張帰りだからだろう。

 鬼島、加賀、有澤、佐々木の成年組は有澤邸にて、それぞれの愛しい子のために取り寄せたお菓子を小分けしてせっせと袋に詰めたり、箱入りの物にはそれっぽい装飾をしたり。最近各々仕事が忙しく、あまり恋人との時間が取れなかったため、明日のパーティくらいはと今日の仕事を終えてこうしている。


「ナツくんの仮装、楽しみだなぁ」
「鬼島先輩、それを言うのは三十回目くらいです」
「いいじゃない。そう思ってないと頭がおかしくなりそうなんだよ」


 ナツ、右京、満和、シノの未成年組は右京の家で仲良く一緒に夢の中。成年組はまだまだ、しばらく眠れそうにない。


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