有澤が宅配便業者

 

高牧 満和(たかまき みわ)
有澤(ありさわ)





「こんにちは、お届け物です」


 身体の弱いぼくは、在宅での仕事を選んだ。買い物なども重たいものはすべて宅配にしている。そのとき、ほぼ毎回届けてくれるのが大手の業者さんで、そこに勤めている運送ドライバーの有澤さん。

 最初は身体も大きいし顔もちょっと怖いし、なんだかびくびくしてしまっていたけれど、今ではすっかり顔なじみになって、顔を見ると安心するようになった。たまに取り寄せをしたものを分けたりして、そういうときの笑顔が本当に好ましい。厚みのある身体は安心感があるし、優しい声は聞いていて飽きない。いつからかこの配達員さんに、ちょっとした恋心を抱いている。


「なんだか顔色が悪いようですね。体調でも悪いんですか」
「はい、少し……」


 などと答えた辺りで、くらりと目の前が揺れた。頭の中も。まずいと思ったけれど身体は勝手に崩れ落ちてしまう。しっかりした腕が抱きとめてくれた辺りまで、かろうじて意識があったのに――

 有澤さんの前では、こういうところを見せたくないと思っていたのに。


 目を覚ますと、いつも自分が寝ているベッドだった。
 どうやってここへ来たのだろうと思いながら身体を起こす。シャツのボタンが開けられ、ベルトも緩められていた。はて、と思っていたら寝室のドアが開き、顔をのぞかせたのは有澤さん。
 家の中に有澤さんがいる。
 そう思うだけでどきどきしてしまう。


「勝手に上がらせてもらいました。熱があるみたいだったので、冷蔵庫の中にあった熱さましのシート貼らせてもらいましたから」


 額へ手を当てると、ふよっとした手触りの物が貼り付いていた。
 お水です、と差し出されたコップ。舐めるように飲みながら、上目遣いに有澤さんを見る。


「……ご迷惑をおかけしました」
「いいえ、何にも出来なくてすみません」
「いいえ」


 そうして、お互いに黙りこむ。
 やがて有澤さんはベッドの脇に座り、ぼくを見上げてきた。


「……ときどき、体調が悪そうな時があるので、心配していました。高牧さんは身体が弱いみたいだな、って……」
「そうなんです。昔からで。今日も熱があるってわかっていて、朝からちゃんとこのシート貼ってたんですよ。でも有澤さんが来たから、みっともないような気がして、みせたくないなって、剥がしたんです」


 正直に話すと有澤さんは赤くなった。
 ぼくの気持ちが伝わってしまっただろうか。思うと、自分の頬も熱くなる。


「俺も、毎回、この家に荷物を運ぶのが好きです。顔が見られると嬉しくて」


 照れたように言う有澤さん。


「あんまり話が上手じゃないので、たくさんは話せないですけど……あなたは笑ってくれるので、その笑顔も素敵だと、思って」
「ぼくも、有澤さんの声とか、好きです……」


 お互いに照れながらそんなことを言い合う。
 目が合い、笑って、掛け布団の上に置いた手に、大きな手が重なった。


「……好きです」
「ええ、ぼくもです」


 それから有澤さんは、荷物が無い日でも家に来てくれるようになった。美味しい料理を作ってくれたり、寝こんだら看病してくれたり。いつもやってもらうばかりで申し訳ない、と伝えると、構わないです、と笑う。


「お世話するの好きなんです。それが、大切な人ならなおさらしたいって思うんですよ」


 照れながらもまっすぐに言葉を向けてくれる有澤さん。
 ぼくは毎回真っ赤になってお礼を言うことしかできない。


「何かお返しができたらいいんですけど……」
「お返し、してくれるんですか」
「有澤さんの好きなものとか」
「いいんですか、本当に」


 いつも優しいその目が、険呑な光りを帯びたことなど気付かなかったぼく。
 元気になってから、有澤さんの真の姿をいやというほど知ることになる……。

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