#うちの子がキスをする相手は

【おじさんとナツ】

「ごめんね、相手がこんなおじさんで」


 部屋に入ってきたのは、スーツ姿で優しげな笑みを浮かべた男性だった。
 鬼島さんとはまた違ったかっこよさがある。鬼島さんは気の抜けた、よく見れば男前なタイプ。この男性は見るからにかっこよくておしゃれ。ばりばり働いていそうだ。

 ふんわりした笑みを浮かべながら、ごく自然に距離を埋めてくる。気づいた時にはすでに隣にいた。


「かっこいい子で嬉しいよ。すぐ赤くなるタイプなんだ? かわいいね」


 低く、優しい声。添えられた指が顎をほんの少し持ち上げた。目が合って微笑まれ、思いがけずときめいてしまう。


「すぐ終わるからね」


 ごめんね、と謝られ、唇が触れた。
 それは唇の横、頬に。


「……さすがに、唇にしたら怒られちゃうから」


 ちゅ、ともう片方の頬にも。
 とても紳士的だ。


「はいおしまい。ありがとね」


 いい匂いがしたよ。そう囁かれて耳が熱くなった。


【鬼島とウキョウ】

 指定された部屋に入ると、痩せた身体に制服をまとった男の子がいた。レベルが高いといわれている進学校の制服だ。そこに乗っかっているのは十代の服飾系雑誌にでも載っていそうなタイプの顔つき。ナツくんのほうが百万倍は可愛いけど。

 その男の子は俺を見るなり早足で寄ってきて、人の襟首を両手で掴む。俺より少し低い背。顎を持ち上げ、見上げてくる。


「なに?」
「キスしろって言われてる」
「へえ、そうなの」
「うん」
「唇?」
「わかんない。でもどうせするなら気持ちいいのがいい」
「それは賛成。でも俺は、好きな子にしか優しくできないの」


 引かれるままに唇を重ね合わせる。すぐに後頭部を押さえ込み、舌で触れるところすべてを舐めつくした。
 男の子の鼻から抜ける声が色っぽい。ナツくんほどではないけれど。体液も匂いもナツくんのほうがいい。
 若ければいいわけじゃないのだな、となんとなく思った。ナツくんが、いいのだ。

 濡れた唇を拭いてあげて、頭を撫でる。男の子はしかめ面。


「ぜんぜん気持ちよくなかった」
「あら、そう?」
「おじさんのほうが、いい」


 そういって一瞬泣きそうな顔をし、部屋を飛び出していった。握りしめられてくしゃくしゃになった襟元を直しつつ、廊下に出る。
 すると少し離れた部屋の前でさっきの男の子が、スーツ姿の男前に抱きついていた。
 いいなあ。鬼島さんもナツくんにぎゅってされたい。


【ウキョウとナツ】

「いい?」
「あああ、ちょっと待ってちょっと待って!」
「どうして? 一瞬だよ。減るものじゃないし」
「そうだけどっ! ちょっと待って!」


 真っ赤になって後ずさる、同い年くらいの男の子。爽やかな感じで汚れたところのない真っ白な雰囲気を持っている。
 明らかに緊張してあたふたする姿、可愛い、かも。


「ねえ、名前は? なんていうの」
「……なつすけ」
「なつすけ? ふーん、可愛い。なつ……」
「や、だめだってば!」
「なんで?」
「怒られちゃう、から」
「誰に? 恋人?」
「うーん……恋人、じゃない……えっと、友だち?」
「ふぅん。そんな顔して、友だち……」


 友だち以上恋人未満、といったところの相手だろうか。こんなおキレイなのを縛り付けている奴がいるらしい。
 両耳の脇へ手をつく。閉じ込めるように。身長はほぼ同じ、真正面から見つめると首が赤くなった。

「ぼくも友だちだよ? なつの」
「会ったばっかり」
「関係ない。ぼく、なつとちゅーしたい」


 まだなにか言いたそうな口を、むりやり塞いだ。ふに、と柔らかくて、何度も何度もキスをしながら指で耳を弄ると身体を震わせる。
 かわいい。
 ちゅ、ちゅ、と音をたてる。首や顎にも下りて、わざわざ襟を緩めてまで肌の質感を味わう。
 こんなところをおじさんが見たらなんて言うだろう?

 腰を抱いて支える。唇は結局胸まで触れた。壁と腕がなければ崩れ落ちそうななつ。敏感な身体だ。


「なつも、ぼくにする?」
「いい……むり……」
「なんだ残念。ところで電話番号かIDかアドレス教えて」
「……鬼島さぁん! 助けてぇ!」


 泣く寸前みたいな顔をして騒ぐなつ。
 なんだか、煽られる。おいしそう。


【鬼島とおじさん】

「初めまして、加賀陵司と申します」
「ご丁寧にどうも。鬼島優志朗です」
「ところでこの部屋なんですか」
「キス部屋だって。キスしろって」
「え、無理ですけど」
「そんなこと言わないでよー。おっさん同士のキスとか誰得? って、俺も思ってんだからさあ」
「じゃあやめましょう。なかったことに」
「えー。俺はいいよ、しても。加賀くん男前だし」
「俺は無理です」
「じゃあ手の甲貸してよ」
「……それならまだ、って、ちょ、なにひっぱ、うわ」
「……ぷっはー。やっぱナツくんが一番だなー。お口直ししなきゃ」
「……」
「あらやだいきなり攻め気? 襲われちゃーう」
「……」

「……意外と巧いじゃん」
「ウキョウに会いたい……何かを失くした気がする……」
「泣かない泣かない。はーいおつかれさまー」

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