右京が宅配便業者

 
右京(うきょう)
加賀(かが)


薄暗い感じで、加賀が無理矢理右京を……という感じです。
大人のおもちゃは出て来ますが挿入描写はありません。





 この人は一体月に何回、宅配を受けるのだろう。
 手に持った小包を、重い足取りで届ける。玄関を見るのは今月だけでも十回以上、仕事に入るとほぼ毎回、この人の部屋へ来ている。しかも時間指定でいつも最後だ。いい加減おかしいと営業所の人も気付くはずなのに、誰も何も言わない。何か妙な権力でも働いていそうだ。そういうことをしそうな、人。

 玄関脇のボタンを押す。荘厳な鈴の音のようなチャイムが聞こえ、間もなくして姿を現した男。


「いらっしゃい、待ってたよ」


 緩やかにウェーブする黒髪、嫌みのない微笑み、一重の目は優しげで顔のつくりは端正で長身、身に着けている物も体型もさっぱりしている。清潔そうで聡明そうなこの人は、ぼくにとっては嫌な人。


「入って」


 宅配便の業者をこんな風に招く客はいない。けれどぼくは逆らわずに玄関へ足を踏み入れた。ドアが閉まる。勝手に鍵が落ちた。そういう造りなのだそうだ。


「サインしないとね」


 玄関脇の棚から細身の万年筆を持ち、差し出した小包の伝票へ慣れた様子でサインをする。それをしまうのを見届け、箱をひょいと持ち上げた。そしてぼくの目の前で封を開ける。ゴミは玄関にぽとりぽとりと落とす。
 伝票には「生活用品」と書いてあったけれど、この男の「生活用品」はいつも、普通に想像されるようなものではない。


「写真で見るよりすごいな、実物は」


 しなやかな美しい手を箱へ突っ込み、穏やかな笑顔で無造作に持ち上げたそれ。
 グロテスクなまでの長さ、太さの男性器を摸した大人のおもちゃ。ゴム製なのか、男の手の動きに合わせて先っぽがぶるんぶるんと揺れる。その向こうにある笑みが怖い。


「ねえ右京くん、今日はこれ、試してみようね」
「むり、です……おかしくな、」


 言い終わる前に、男の手がぼくの襟首を掴んで引き寄せた。間近に迫る顔には穏やかな表情が、貼りついたように備わっている。


「おかしくなるのは、気持ちよすぎて、ってこと?」
「ちが……そんな大きさ、むり……」
「無理なわけないよね。俺見てたよ? 右京くんの小さなここに」


 固い感触が尻にあてがわれる。あのおもちゃが、尻の割れ目を擦り上げる。


「このくらいおっきいもの、が入りこんだの。右京くん、気持ちよさそうにしてたでしょ? あんあん鳴いて、もっと、って」


 吐息交じりのいやらしい低音にぞくぞくする。
 ぼくがこの仕事だけでなく、夜に非合法のバーで働いているのを、この男は知っている。そこでどんなことをされ、何をしてお金を稼いでいるのかも全て。会社や学校や、世間にばらされたくなかったら、と、毎回こういうことを強要されている。

 最初は、このマンションがある地区の配送担当になったことからこの男と知り合った。何回も届け物をするうちに親しくなり、差し入れを貰ったり、電話番号を交換して食事にも行ったりする仲になり。親切で優しくて大人の男の人。どきどきした。
 初めてキスをして、そのあとに、ばれた。いや、男はどうやらぼくの携帯電話を勝手に見たようだ。そこに入っていたお客さんとのやり取りを見たのだろう。そうでなければあのバーに姿を現すはずがない。

 ぼくが運ぶ小包の中身はいつも性的な道具で、それを使って、この玄関で、ぼくの身体を弄ぶ。あのバーでいたぶられているぼくに興奮したという男は、脅されて無理矢理身体を開かされているという状況に興奮するぼくに、一層の興奮を覚えているらしかった。


「やだ、むり、むり……っ」
「無理じゃないよ。ほら……もう先が入った。わかるよね? お尻が閉じないの」
「やだ……っ」
「あのステージでは気持ち良いって言ってるのに、ここだとそういう反応なんだね。面白い」


 服はほとんど乱されないまま、ズボンだけをずり下げられ四つん這いにされ、後ろからずぶずぶ太い物が挿入される。ローションでぐずぐずになっている、物を受け入れるのに慣れたそこはいやらしく開いて飲みこんでいるようだった。圧倒的な存在感に歯を食いしばってしまい、口が開かなくなって呼吸が止まると指を差しいれられ、口付けられて息をするよう促される。


「小さいお尻なのに、けなげだね。いつからこんなことしてるの」
「……っ、加賀、さ」
「答えてくれないなら一気に入れちゃうけど」
「……ずっと、っ、まえから……」
「ふぅん。ねえ右京くん、もっと色々な顔見たいからさ、今度あのバーで、俺とプレイしようか。あんまり上手じゃないんだけど」


 首を横に振る。今度こそ壊されてしまう。あのバーで禁則事項は存在しない。この男にも、きっと。
 今は道具が少ないからこの程度で済んでいるのだと、勘でわかる。この男は本当に危ない。


「壊れたら、俺が責任もってこの部屋で飼ってあげるよ、だから、ね?」


 もっとたくさん、君の素敵な顔を見せて。可愛い顔を。

 内壁を擦り上げるおもちゃの感覚、暗示を掛けるような静かな声。薄暗い玄関で頭の中をぐちゃぐちゃにされるようなぼくの、涙で霞んだ目に、玄関に転がった箱が見えた。宅配便の箱。

 いっそあの中に詰め込まれて、どこか知らない場所に適当に配達されてしまいたい。
 この場所から逃げたい。好きな人に凌辱されることに興奮してしまう、あさましい自分を見たくないから。

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