ナツが宅配便業者

 
鬼島(きしま)
納谷 夏輔(とうや なつすけ)





 朝方にようやくベッドへ辿り着き、心地良いとは言えないけれどそれなりの質を持った眠りの中にいた。それを邪魔する着信音。枕元に置いたスマートフォンがバイブレーション付きで派手に鳴る。画面を見ると登録していない電話番号で、一瞬無視をしようかとも思ったけれど、もう眠れないだろうことが分かっていたから通話ボタンを押した。


「もしもし、ご利用ありがとうございます。クロイヌ急便です。鬼島様のお電話でしょうか」


 聞こえてきたのは溌剌とした、多分若い男性の声。そうです、と、寝起きの地を這うような声で答えると、もうすぐ荷物を宅配するが家にいるか、と尋ねてくる。


「いるけど、どのくらい?」
「五分くらいです。もうお家の前なので」


 電話をよこすタイミングが間違っているような気がする。
 すぐにお届けいたします! と、最後まで元気な声で電話が切れた。ベッドから起き上がり、自分の身なりを見下ろす。上半身裸、下半身も下着だけ。相手は男らしいからこのままでもいいか、などと一瞬思ったが、脱ぎっぱなしだった黒いシャツを拾って羽織り、落ちていたズボンを拾って足を通した辺りで鳴った玄関のチャイム。通りがかったキッチンで水を飲み、ドアを開けた。


「クロイヌ急便です」


 荷物を抱えてにこにこしていたのは、まだ大分若い配達員だった。癖のない黒髪、少々日焼けした肌、人懐っこそうなきらきら目、凛々しい顔立ちで元気さ溢れる、いかにも友だちが多そうな子。
 若々しい身体に青いユニフォームを着て、鬼島様ですね、と尋ねてくる。胸元の名札には「納谷夏輔」と書いてあった。

 何この子すっごい好みなんですけど。かわいい顔、おいしそうな身体。近年稀にみる好みの男の子だ。

 さきほどまでの不機嫌さは吹っ飛び、にこりと笑いかける。


「鬼島です」
「荷物です。佐々木様から。サインお願いします」


 胸元からボールペンを取り出し、差し出してくる。


「はいはいありがとうね。お兄さん、若いね?」
「高校生です」
「へー。いくつ?」
「十七歳です。今日は学校がお休みなので、平日なんですけどアルバイトに」
「そっかー」


 サインをして、ボールペンを返すふりをして玄関のタイルに落とす。あ、と意識がそちらに逸れたとき、俺は手を伸ばした。
 素人の男の子ひとり、簡単におさえられる。喧嘩もしたことがなさそうな、素直そうな子ならばなおさら。

 閉じられたドア。
 玄関に転がった段ボール箱、両手首を掴まれ壁に押し付けられて、俺に口の中を舐めまわされる夏輔くん。唇を離すと、思った以上にとろんとしたえっちな顔で見上げてきた。真っ赤な頬が初々しくて愛らしい。
 嫌悪するそぶりも抵抗するそぶりもなかった。押さえた手首からはくったりと力が抜けている。


「夏輔くん、かっこいいから恋人いるでしょ」


 耳元で、吹きこむように囁く。すると小さく首を横に振った。


「いま、せん」
「童貞?」
「……」


 こっくり頷く素直な夏輔くん。ちゅっと頬へキスをして、片手を離し、腰の辺りを撫でてやる。


「まだやることあるんでしょ? それが終わってから、もし良かったらまたここに来て。一緒にご飯食べて、えっちなことしよう。俺、夏輔くんのこと好きになっちゃったから、親切に、優しくしてあげる」


 だから、触らせて。囁くと身体を震わせる。
 手首を解放してあげると急いで家を出て行った。開いたドアがすぐに閉まる。鍵を掛け、箱を拾ってふふふと笑った。あの子は必ず戻って来る。必ず。
 楽しみだなぁ。

 案の定、八時過ぎにチャイムが鳴った。
 画面を見てみるとカメラに暗い庭とそわそわしている男の子が映し出されている。宅配便の制服姿のまま、昼間は持っていないリュックを背負っているらしかった。


「いらっしゃい。お疲れさま、夏輔くん」
「……こんばんは」
「どうぞ。もうご飯できてるから」


 ご飯、と聞いて目を輝かせる。よくないなあ、そんな簡単に背中を見せて。
 靴を脱いでいる途中の夏輔くんに、後ろから抱きつく。鞄の中にはあまり物が入っていないようで、簡単にぺしゃりと潰れた。


「若い子の匂いがする」
「やめてください」
「いい匂い」


 言葉を掛けて、手を動かして宥めるようにお腹の辺りを優しく撫でる。服の上からでも、滑らかに腹筋がついていることが感じられた。
 それだけで夏輔くんは抵抗をやめる。人に触れられるのが好きなのだろうか。


「お家の人は、大丈夫なのかな」
「……うちは、おとーさんだけで、えと、いつも遅いんです……忙しくて、帰って来ない日の方が、多くて」
「そっか。じゃあ今日は俺が夏輔くんのこと、たくさんいい子いい子してあげようね」


 えっちなやつだけど。
 囁くだけで真っ赤になる。かわいいかわいい夏輔くん。お腹いっぱいご飯を食べてもらって、それからその身体をおいしくいただこう。


「……ねえ夏輔くん、いつお腹いっぱいになるの?」
「え、まだまだ全然足りないです」
「よーしもう一回ご飯炊くか」
「お願いします」

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