加賀とナツが恋人だったら……

 

『拾った子の癖は』加賀 陵司(かが りょうじ)
『お友だち(偽)』夏輔(なつすけ)


もし恋人だったら?というお話です。
「ナツは鬼島以外といちゃいちゃしないで」
「おじさんは右京のものだ!」
という方はご覧にならない方が幸せです。







 夜十一時に、帰宅。寝ているかと思ったけれど廊下には灯りがついていて、リビングのドアが開いた。


「おかえりなさい、加賀さん」
「ただいま、夏輔くん」


 出てきた夏輔くんの健康的な締まり具合の腰を抱き、ちゅう、とキスをする。と、真っ赤になってぷるぷるした。付き合い始めてかなり経つのに初々しいことこのうえない。その様子がまた可愛くて、ついつい二回三回と口付けてしまうのだけれど。


「かがさん……」
「うん?」
「……ぎゅ、は?」


 キスを終えたら、恥ずかしがりながらもそんなことを言う。
 健やか爽やかな外見のかっこいい高校生男子が、こんなおっさんのスーツの裾を掴んで軽く首を傾げながら抱きしめろとねだってくるのは凶器のごとき威力を持つ。
 もちろん聞いてやらない訳がない。
 ぎゅっと抱きしめ、髪を撫でる。ふんふんと動物のように肩口を嗅いだり俺の腰のあたりへゆるく腕を回してみたり忙しい。
 お風呂に入ったばかりらしい身体は温かく、髪はまだ湿っている。


「髪の毛乾かしてあげるから、座って」
「え、でも」
「いいからいいから」


 ソファに座らせ、洗面台からドライヤーを持ってきた。短いから放っておいても乾くのだけれど、今日は冷える。
 温風を当てて指を通して梳いて、ふわふわになった夏輔くんの髪。冷風も当てて鼻先を入れると良い感触だった。


「加賀さん」
「いい匂いだよ」


 頭をなでなで、真っ赤な耳に口付ける。と、ドライヤーを片すと言いながら逃げてしまった。可愛い子だ。

 ダイニングテーブルの上には、夜食の大きなおにぎりが用意されていた。夏輔くんらしい大きさで、中に具が三つばらばらに入っている山賊おにぎり。それから鍋にまだ温かいなめこの赤だし汁。
 先にお風呂に入ってからいただいて寝よう。

 着替えを持ってお風呂場に行くと、夏輔くんがいた。背中流します! と、手にタオルを持っている。なのに服を脱ぎだすと真っ赤になって両目を手で覆ってしまった。


「今日は元気だね」
「はい。早く学校が終わって、帰ってきてお昼寝しちゃったんです」
「明日お休みだしね。遅寝でも大丈夫か」


 軽く身体を洗い流して髪も洗って、疲れ切った身体を湯に浸すと、縮んでいた筋肉が広がるような感覚になって思わず声が出た。
 夏輔くんはまだ目を覆ったまま。


「夏輔くん、向こう行っててもいいよ?」
「やです」
「なんで?」
「加賀さんとお話したいです。最近ゆっくりしてなかったから……いっしょに、いたくて」


 帰ってきて数十分で既に致死量の愛を胸に溜めてしまった。愛しさに息が詰まりそうだ。思わず溜息をつくと、迷惑ですか、と、指の間からこちらを見た。


「迷惑なんかじゃないよ。俺も夏輔くんと話したい。何から話す?」
「えと、最近食べた美味しいアイスがあるんです。冷凍庫に入ってるので」


 手を取り外し、きらきらした目で俺を見ておいしかったものや見たこと聞いたことなど十代の彼が感じていることをたくさん話してくれる。耳あたりのいいテノールが活き活きと日々を語るのは聞いていて心地良い。
 そして必ず、お話の最後にはこう言う。


「加賀さんといっしょに」


 したい、食べたい、見たい。
 俺と共有したいと言う。忙しさを理由にあまり出掛けられないし時間を共に過ごせないのに、必ず夏輔くんは心の片隅に俺を置いてくれて、一緒に、と。
 それが俺をどんなに嬉しがらせているか、きっとこの子は知らないだろう。
 いつ捨てられるか怖がる俺が、夏輔くんがこうやって言ってくれるたびに安心している。


「夏輔くんはかわいいねぇ……」


 浴槽の縁に顎を乗せ、噛みしめるように言ったらまた赤くなって、床の上で膝を抱えた。いつまでも褒められ慣れてくれない子。だから何度も言って慣らしたくなってしまう。


「キッチンのおにぎり、今日の具は何?」
「えと、梅とこんぶと、明太子」
「おー」
「明太子かおかかか迷いました」
「おかかもいいよね」
「明日の朝、叩いた浅漬けきゅうりに鰹節をかけるつもりだったから、同じになっちゃうと思って」
「浅漬けきゅうり?」
「安かったから買ってきて、二本今漬けてあります」
「なんだか春だねー」
「そうですね」
「食べ物が豊かになるから、お酒がおいしくなっちゃうな」
「おれも太っちゃいます……」
「ぷにっとしても可愛いよ」


 もじもじ、目をそらす。健康的な夏輔くんの身体は少し肉がついても問題ない。
 さて上がるか、と身体を引き上げたら、がらがらドアを閉められた。背中は流してくれないようだ。ベッドでは身体を何度も見ているのに。


 お風呂上がりにおにぎりを食べ味噌汁を飲み、ニュースを見て少々お酒を飲む。夏輔くんは自分の部屋で課題でもやっているのだろう、しばらく姿を見せなかった。
 寝ようか迷う時間、夜も深くなった頃にふらふら眠そうにやってきた。俺の横へ座り、肩に頭を置く。


「眠い?」
「ふぁい……」
「さっきまで元気だったのに」
「……お話したり、課題やったりしたら眠たく……」
「そっか。じゃあ寝ようね」


 先に夏輔くんをベッドに行かせて歯を磨き、灯りを落として寝室へ。ベッドに入ると体温でほんのりあたたかい。


「かがさん、久しぶりにいっしょです……」
「そうだね。寂しくさせてごめんね」
「はい……」


 向けられている背中を抱きしめると手を掴まれた。眠さ故だろうか、熱いくらいの体温。


「……あした、のあさは、いますか」


 眠くてふにゃふにゃの声が尋ねてくる。いるよ、と答えた。明日は午後からだ。すると安心したように、寝息をたてる。
 可愛い恋人。明日起きたら何を作ってあげようか。たくさん食べる姿がいちばん愛らしい。
 黒髪に口付け、頬擦りをして目を閉じる。共にいるだけで癒される。


「おやすみ、夏輔くん」

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