ぽっきーげーむ2

 さて、勝ち残ったのは鬼島さん、佐々木さん、シノくん、おれ。どんな組み合わせになるか再びのあみだくじ。すると――


「……これはもう一回あみだしようよ」


 鬼島さんの口からこぼれた言葉。おそらく四人全員が、何らかの思いを持ってそう思った。
 鬼島さんとシノくん、佐々木さんとおれ。


「……白豚ちゃん、息しないで」
「それはこっちのセリフですけどー」


 さっそく言い合う鬼島さんとシノくん。佐々木さんはいつものように冷ややかにおれを見下ろした。


「ナツくんもね」
「えっ」
「ウソだよ」


 腕相撲のときも鬼島さんとシノくんは当たっていたけれど、佐々木さんとおれはおそらく初めてだ。どきどきと緊張がないまぜになった、妙な心持ち。


「佐々木のおじちゃんがよかったなあー」


 そう言っていたシノくんは、くわえるなりばりばり食べて鬼島さんの唇ぎりぎりでへし折るという技を見せた。鬼島さんが有澤さんにやったものを最後以外は真似たような形。顎を持ち上げ、勝ち誇った顔をするシノくんに珍しく鬼島さんが悔しそうな顔をした。ような気がした。


「白豚ちゃんにしてやられた……勝ち残ってナツくんにえっちなコスプレして貰いたかったのに」
「鬼島さんそんなこと考えてたんですか!」
「猫耳とか付けてにゃんにゃん言ってもらったり、えろナースの恰好でお注射くださいとか言わせたかった」
「シノちゃんが勝って良かった。ほら、早く秘密言いなよおっさん」
「秘密ねぇ……ナツくんの背中には三つ並んだほくろがある」
「それ、おれのことじゃないですか」
「いいじゃない。鬼島さん清廉潔白な人間過ぎて秘密なんかないし」


 せこ……と呟くウキョウくんと有澤さん。
 とりあえずこれで勝者がひとり決定。残るは佐々木さんとおれのどちらか。


「ま、負けないですっ」
「なつくんはなんかお願い事があるの」
「まだ考えてないです、けど」
「ふーん」


 先に口に銜えた佐々木さんが、ほら、と差し出してくる。顔は本当に綺麗で、躊躇していると顔をがっちり両手で掴まれ引き寄せられる。薄くて大きい手はひんやりしていて、陶器のような見た目にぴったりだと思った。
 かっこいいひとは近付いてもかっこよくていい匂いがする、という法則は佐々木さんにも実に有効だった。この至近距離で見つめられ、緑と黄色が入っている瞳を見つめる。


「早く口に入れてくれない」


 いらいらしたように急かす。慌てて銜えたのはいいけれど、口を大きく開けすぎた。ぱっくりと、普通に食べる勢いで半分近く食べてしまったのだった。目を瞬かせる佐々木さん。そんな顔しないでほしい。おれも驚いているのだから。
 佐々木さんが口を離した。やはり無表情で。


「佐々木のことだからがっしーぶっちゅーってやるかと思ったんだけどな」


 抱きしめるようなリアクションつきで言う鬼島さんの言葉に、佐々木さんはあっさり首を横に振る。


「ないです。ナツくんに関しては」


 ちょっとしょんぼり。


「じゃあカズイチ、マイルドな秘密を言え」
「マイルドねえ……三年くらい前かな、だ」


 鬼島さんに耳を塞がれたので、何も聞こえませんでした。


 ということで、今回もぐだぐだ感が否めなかったゲームが終了し、勝ったのはシノくんとおれ。


「シノくん、もうお願い事は決まってるの?」
「シノねえ、満和さんにキスしてもらいたいなー」
「えっ!」
「勝者の言うことは絶対だよ高牧くん」
「そうだよ満和くん」


 シノくんの言葉に妙に乗り気な有澤さんと佐々木さん。
 しぶしぶ、といった様子で満和はシノくんの隣に座った。


「迷惑?」


 シノくんに見つめられ、小さく首を横に振る。


「でも、あの、キスってどこに」
「んー、ほっぺでいいよ! ほんとは口が良いけど、満和さん、嫌そうだから」
「嫌じゃないけど……」


 恥ずかしいもん、と呟く。可愛いな、満和。
 はい、と差し出された頬に、ちゅ、と軽く口づける。するとシノくんの頬がふわりと色づいた。可愛い。どちらも可愛い。隣の有澤さんと佐々木さんから途切れない連写音が聞こえたのはBGMということにしておこう。


「で、ナツくんはなにかないの」
「お願いごと……ですか……うーん……」


 どうしよう。顎に指を当てて考える。お願い事、なんでも言うことをひとつ聞いてくれる、という。してもらいたいこともなければ、お願いもない。


「鬼島さんに猫耳着けてほしいとかでも良いんだよ」
「おっさん気持ち悪い」
「ナツくんになら何されてもいい。むしろされたい。責められたい」
「……気持ち悪……」


 きょろりと見渡し、撮った写真を確認しているらしい佐々木さんを見上げる。
 視線に気づき、佐々木さんがスマートフォンの画面から目をこちらに移した。


「何?」
「佐々木さんって、おれのこと嫌いなんですか」


 聞きたいです。


「だってさ。佐々木。正直に答えなよ。勝者の言うことはぜったーい」


 右手を軽く上げながら鬼島さんが言う。
 佐々木さんはおれを見下ろし、鬼島さんを見、小さく溜息をついた。


「嫌いじゃない。かといって好きかと聞かれると難しい」
「そうですか。ありがとうございました」
「え、ナツくんそれだけでいいの?」
「はい。嫌いじゃなければそれでいいです」


 佐々木さんにも何やら複雑な思いでもあるのだろう。鬼島さん絡みかもしれないし、おれ自身に原因があるのかもしれないし、それはわからないけれど。積極的に嫌われていなくて良かった。


「鬼島さんがしようとしていたお願いはわかったんですけど、みんなお願い事って確定してました?」


 有澤さんは小さく「……高牧くんに名前で呼んでもらいたかった」と言い、満和は「特に考えていない」で、ウキョウくんは「なつに抱きしめてもらっていちゃいちゃ三時間」加賀さんは「満和くんとナツくんとシノちゃんをぎゅってさせてもらう」佐々木さんは「満和くんとシノちゃんの写真撮影一日」だったそうだ。


「ナツくん、余ったやつでゲームする? ナツくんごとばくっていっちゃうかもしれないけど」
「うるせーおっさん。なつはぼくと満和くんとシノちゃんと遊ぶから黙っててよ。おっさんは酒飲んで軽い肝硬変にでもなれ」
「仔猫ちゃんひっどい。陵司くーん」
「右京、言いすぎるのは良くないよ」
「おじさんは、なつが変な大人の毒牙にかかってもいいの」
「……変な大人である俺からは何も言えないな……」
「おじさんは変じゃないよ。変な大人っていうのは、人前でも平気で自分の欲望を口にしちゃうような人を言うんだよ」


 その言葉に、加賀さん以外の大人が全員目を逸らした。

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