ぽっきーげーむしましょ

 

『お友だち(偽)』鬼島とナツ
『拾った子の癖は』加賀と右京
『有澤さんと高牧くん』有澤と満和
『佐々木さんの恋人』佐々木とシノ


いつものメンバーでぐだぐだのんびりしたポッキーゲーム





 鬼島さんの家で、いつものメンバーで昼ご飯を食べて食後のデザートにアイスを食べて、非常にまったりした時間が流れている客間。各々好きなように過ごしていたら、鬼島さんが急にシノくんに絡み始めた。


「そこの白豚ちゃん、いいもん持ってるじゃない」
「鬼島さん、その絡み方はどうかと思いますよ」
「寄越せよ、それ」
「鬼島のおじちゃん、これでナツさんにやらしいことするつもりでしょ」


 おれの後ろにそそくさと隠れたシノくんの手には、チョコレートのジャンボプレッツェル。普通のものより少々太く、長さがある。あの小さいかばんのどこにこのお菓子が入っていたのだろうか。
 鬼島さんは黒いシャツに黒デニム姿で意地の悪そうな笑みを口元に浮かべ、こちらににじり寄って来る。座っているおれたちから見ると悪魔みたいで少し怖い。シノちゃんがぎゅうとおれのTシャツをにぎりしめる。


「別に悪いことはしないよ。ただちょっとゲームがしたいだけ。普通に食べて脂肪になるより楽しく食べたほうが後悔しないと思わない?」


 ウキョウくんから勉強を教わっていた満和とそれを見ていた有澤さん加賀さん、廊下で長々横になって半分寝ていたらしい佐々木さん、そしておれとシノくんはほぼ同時に鬼島さんを見上げた。


「みんなでポッキーゲームしようよ」


 ウキョウくんと目が合い、佐々木さんは鬼島さんを熱く見つめ、有澤さんは満和を見て、加賀さんはどこか遠くを見て、シノくんはおれの首に腕を回してきた。これはやるパターン。
 ルールとしては、とりあえずお互いに両端を銜え、そこからたくさん食べたほうの勝ち、ということになった。それ以外は何をしてもいいなどと不穏なことを言う鬼島さん。


「せっかくゲームなんだし、なにか賞品あるといいかもねえ」
「……勝てる気がしないのですが」


 弱気に呟く有澤さんを無視して、何にしようかと言う。


「勝った人が言う欲しい物を、指名された人は必ず提供する……とか」


 佐々木さんの提案に、ウキョウくんがこちらを見てにやり。何を考えているかわかるようなわからないような。佐々木さんは満和とシノくんを見て無表情ながら何かを考えているし、鬼島さんは曇りなき眼でこちらを見つめている。
 話し合い、最後に勝ち残ったふたりがそれぞれ願い事をひとつだけ口にできるということに決まった。


「ただ負けるのもつまんないから、負けた人には何か秘密とか恥ずかしいこととか暴露してもらおっかな」


 勝ち残れる気がしないのは有澤さんだけでなく、おれも同じ。


「はい恒例のあみだくじしますよー」
「なつはあみだくじ好きだよね」
「わかりやすいから」


 線を辿って辿って、有澤さんと鬼島さん、佐々木さんとウキョウくん、加賀さんとおれ、満和とシノくんと決まった。

 ウキョウくんは佐々木さんを見て露骨に嫌そうな顔をしているし、有澤さんは始める前からすでにげんなりした表情を浮かべている。満和はすでにシノくんに抱きしめられて真っ赤だ。おれは――加賀さんを見ることができない。かっこよすぎる。加賀さんとはなかなか会わないから、いつも新鮮にかっこいい。

 この勝負? 一体どうなるんだろう。




 畳の上で向かい合って、鬼島さんはにやにや有澤さんはむっつり。


「何が悲しくてむさくるしい顔近付け合わなきゃいけないんですか」
「いいからいいからー」
「んむ」


 鬼島さんの手によって強制的に銜えさせられた有澤さん。観念したように肩を落とし、顔を傾けて鬼島さんに差し出す。なんだか可愛い。
 眼鏡を外した鬼島さんが端を銜えた。と思ったら、おもむろにぽりぽりぽりぽり、普通に食べ始める。有澤さんは動かない。そして、唇につくかつかないかぎりぎりのところで奇声を上げながら有澤さんが顔を逸らした。


「はい有澤負けー秘密暴露ー」


 佐々木さんが言う。
 有澤さんは少し考え、ささっと鬼島さんから離れた。


「なんで逃げちゃったわけ、あーりん」
「昔、鬼島さんの背中にでかい蜘蛛入れたのは俺です」
「……ああ、あの雪まつりのあと?」
「すみませんでした」
「全然怒ってないから譲一朗こっち来なさいよ」
「すみませんでした。目の前に背中があって蜘蛛がいたら入れずにいられようか。いや、いられない」
「あーりん、後で見てろよ」


 もぐもぐしながら鬼島さんが言う。その余裕、勝者の貫録ですね。と佐々木さん。貫禄なのだろうか。
 続いて、佐々木さんとウキョウくん。


「前回の腕相撲も右京とだったような気がするんだけど。つくづく縁があるね。運命かな」
「よくシノちゃんの前でそんな風にさらっと言えますね」
「言えるよ。疾しいことじゃないし」


 さらりと言い、佐々木さんが差し出した端をかじるウキョウくん。顔が綺麗なふたりがこうして向かい合うと、目の保養でもあり毒でもあった。ウキョウくんが嫌そうなのがちょっといい。
銜えたまま動かないふたり。ウキョウくんの唇にあるチョコレートの部分が溶けだしている。と、佐々木さんの腕がおもむろにウキョウくんの腰を抱き寄せた。抵抗することもできずにあっさりとふたりの距離はゼロになり、それはもう熱いキスシーンを見せられ、おれの隣にいる加賀さんは苦笑している。が、その向こうにいるシノくんはなぜか目を輝かせていた。
今、何を考えているのだろうシノくん。


「はい仔猫ちゃん、敗者は秘密をぶちまけよー」
「……秘密……あっ、昨日おじさんのシャツとぼくの色物を一緒に洗っちゃって色移りしたのを隠しちゃったんだ。ごめんね、おじさん……」
「いいよ」
「隠したから、今日天罰食らったんだ……うう、おじさんごめんなさい……」


 ウキョウくんはよろよろ四つん這いで戻ってきて加賀さんの腕に収まった。頭を撫でられ、慰められている。佐々木さんは平然とシノくんの隣に座り、膝立ちしたシノくんになにやら耳打ちされていた。一体何の相談だろうか。


「佐々木は、白豚ちゃんとか陵司くんに対して罪悪感とかないんだ?」


 鬼島さんが尋ね、満和を膝に乗せた有澤さんがうんうん頷く。確かに、普通恋人がいる前であんな風にキスをするのは憚られるだろう。しかしそれは鬼島さんが言える立場ではないのではないだろうか……。
佐々木さんはいつも通りの無表情で軽く首を傾げた。


「別に無いですよ」


 このクズめ、と有澤さんが呟くが佐々木さんはどこ吹く風。佐々木さんはやっぱり謎の人だ。

 次は、満和とシノくん。
 シノくんはとても嬉しそうににこにこしている。


「満和さんで嬉しいな。ちゅーしてもいい?」
「ちゅ……ええと、うう」


 顔を近づけられただけですでに真っ赤になっている満和。大丈夫かな……。有澤さんは喜んでるのか悲しんでるのかよくわからない顔をしていて、佐々木さんは口元を片手で押さえつつすでにムービーを撮り始めている。
 シノくんの艶やかなピンクの唇に挟まれたクッキーの部分、差しだされたチョコレート側を満和はゆっくり、口に入れる。


「これはえろい」


 はあ、と溜息をついて佐々木さんが呟く。口を覆っているのはなるべく声を入れないようにしているのだろうか。
 どちらもとてもゆっくり前に進む。が、途中で満和が止まった。シノくんも笑って動かなくなる。満和はぷるぷる、シノくんはにこにこ。


「かわ……っ」


 言いかけた有澤さんの口を白い手でびたんと叩く(覆う)佐々木さん。黙れ、と、更に目で言っているように思う。怖い。佐々木さん怖い。
 結局満和の唇のすぐ近くまで食べ、ぽきんと折った。シノくんは唇を舐めて「ごちそうさまでした」と言い、満和は真っ赤な顔を覆って恥ずかしがっている。シノくんの勝ち。


「シノちゃん、満和くんが好きだね」
「うん、すき!」
「じゃあ今度お写真撮ろうか」


 佐々木さんの言うお写真とはあれだろうか……聞こえたらしい満和がびくっとしている。


「高牧くんもなにか秘密を言わないと」
「あ、うー? うーん……あっ。有澤さんが出張に行った時、北山さんとこっそり料理が美味しい旅館にお泊りして立ち湯に入って海見ました」
「なに……?」
「北山さんと一緒に寝たりとか」
「……ちょっと北山に用事が」


 そう言って立ち上がりかけた有澤さんを満和が引き留める。それを見ながら、いよいよおれと加賀さんになってしまった。


「よろしくね、ナツくん」
「うう、はい」
「ごめんね、顔近付けるけど」


 言いながら、すいと近付いてくる顔。垂れ目気味というのだろうか、目じりが少々下がっている。茶色の瞳、緩くウェーブの掛かった黒髪、綺麗な鼻梁、下唇の左端に薄くほくろがあるのも見えた。


「あうう」
「ナツくんのそういう、恥ずかしがるところがたまらなく可愛い」


 真っ赤になるのが止められない。思わず目を閉じてしまい、唇に柔らかくチョコレートのついた棒がいれられた。


「ナツくんそれすごくキス待ち顔……っ、かわいいねえ」


 鬼島さんの声が聞こえる。同じように可愛い可愛いと言うウキョウくんの声、シノくんの声。見られていると思うと余計恥ずかしい。


「キスしちゃったらごめんね」


 甘い声に囁かれ、目を開けると失神した方がましだと思うくらい加賀さんが近くにいた。反射的に再び目を閉じ、甘いチョコレートとクッキー部分の絶妙な味を好ましく思うことで気を逸らそうと少しずつ食べる。
 一瞬ふわりと触れた感触。明らかに人の――しかし目を開けるとすでに加賀さんは少し離れていた。


「ナツくんの勝ちー」


 鬼島さんが言う。加賀さんはどうやらあまり動かず、「とりあえず食べる作戦」に出たおれがより多く食べたらしい。見たら笑いかけられ、慌てて顔を覆った。イケメンビームで溶けてしまう。


「陵司くん、さすがイケメンホワイトだねえ」
「何がですか」
「そのさりげない感じがいいんだろうね」


 加賀さんが白なら、鬼島さんは黒だ。けれど嫌な意味での黒ではなく、神秘的な黒。加賀さんの白はすべてを覆い尽くす、優しくて、でも少し怖い白。二人が並んでいると、どうもそんな気がする。


「イケメンホワイトの秘密は?」
「高校生のときに殴られて頭縫ったんですが、未だに相手のこと恨んでます」


 爽やかな笑顔でさらり。意外と執念深い方なのかな。


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