遊園地2

「これ、発車した瞬間写真撮ってくれるらしいから。妙な顔してたら買っちゃうのもありだね」
「妙な顔って、鬼島のおじちゃんの変な顔かなー」
「白豚ちゃんのかもよー」


 上級者向けのアトラクションに向かって歩きながら、うふふあはは、火花を散らすふたり。おろおろする満和に佐々木は、いつものこと、と告げる。


「満和くん、譲一朗とはどう」
「……大事にしてもらっていますよ」
「そう」
「有澤さんって、どんな人だと思いますか、佐々木さん」
「ん?」
「よくわかんないんです。有澤さんが、何を考えているのか。好きとかいろいろ言ったり、したりしてくれるんですが……有澤さんはぼくのことが好きなんでしょうか」
「好きって言うなら好きなんじゃないの」
「……ですかね」
「昔はちょっとっていうかかなりアレだったけど、満和くんのことは人生初ってくらい真剣だから心配しなくていいよ」
「そうですか」
「うん」


 佐々木の手が、満和の頭を撫でる。それはいやらしくもなんでもない、優しい撫で方。


「もしあの男のでかま……いろいろに飽きたら言ってね」
「それ、鬼島さんにも言われました」
「あ、そうなの? じゃあ優志朗先輩に譲らなきゃ」


 それこそ冗談とも本気ともつかぬ口調で言い、鬼島とシノの間に割って入る。

 辿り着いた上級者向けは白いレールが長く伸び、落下する部分はえぐれているものすごい構造だった。迫力に興奮するシノが先に走って行く。
 やはり別ゲートから入り、最前列へ佐々木とシノ、後ろに鬼島と満和。スピードがはやいとあって、たしかに出発直後に重力を強く感じた。しかしそれからはあっという間に終わってしまったような気もする。


「速いのも考え物だね」


 鬼島が呟き、佐々木が頷いた。
 アトラクション前の建物で、撮られた写真をモニターでチェックする。


「……佐々木って、こんなときも無表情なんだ」
「楽しんでますよ結構」
「おじちゃんの周りだけ時が止まってるみたい」
「たしかに」


 髪もあまり乱れているようには見えず、顔もいつものまま。そんな佐々木を見て、なんとなく静まり返る。


「次、揺さぶられる系いく?」
「俺やめとくー。酔っちゃうから。揺れには弱いのよね」
「そうなんですか、優志朗先輩」
「船は平気なんだけどね。遊具系の規則正しい揺れはちょっとむり」
「満和さんは?」
「んー……チャレンジしてみる」
「おじちゃんは?」
「行くよー。シノちゃんと満和くんほったらかしとかダメでしょ」


 三人と別れた鬼島。ふらりと訪れたのはメリーゴーランドの前。
 昔々に一度、最近一度。計二回乗ったことがある。昔々はそれが誰とだったのか覚えていない。ただ楽しかった記憶が朧気にあるだけ。
 最近のほうは、それでも十数年前。どういう流れで来たのかは覚えていないが、蓮さんと来た。鬼島をむりやりメリーゴーランドに乗せ、本人は似合わないと手を叩いて笑いながら馬に乗っていた。その蓮も十分似合わなかったが。


「鬼島さん?」


 はっ、と我に返った鬼島の視界に入ったのはナツ。
 不思議そうに目を瞬かせ、近づいてくる。蓮さんによく似た優しさと明るさを持った少年。


「ひとりですか」
「ああ、うん。三人は揺れるやつに行ったから別れたの」
「有澤さんは満和から連絡が来て、そっちに行きましたよ」


 鬼島はナツの手を取り、メリーゴーランドに近づいて行った。え、え、と言うのをグイグイ引っ張り、ゲートをくぐる。


「の、の、乗るんですか」
「うん。ナツくんはそのユニコーンね」
「え、鬼島さんは馬車? ずるいです」
「大丈夫大丈夫、ナツくん似合うから」


 しぶしぶ、といった様子で白い一角獣にまたがるナツ。それを正面から見てにやにや、写真を撮る鬼島。それから隣の馬車に乗りこんだ。
 ゆるやかでファンシーな曲が流れ、上下しながら回る。鬼島を見ると何かを思い出すように微笑んでいた。


「ナツくん、やっぱり似合うよ」


 ふふ、と笑う鬼島はきちんとナツを見ている。だから何も聞かないことにした。


「シノくんはもっと似合いますよ、きっと」
「白豚ちゃんには豚でしょ。ないけど」
「……鬼島さん……」


 音楽が止まる。徐々に回転も停まった。鬼島が手を差し伸べて、恭しい態度で礼をする。


「お手をどうぞ、王子様」
「きしまさ」
「こんなときしかできないからねー」


 手を取り、降りる。頬を染めて顔を上げるとギャラリーが四人いた。にやにやしながら見ている者、ぎりぎりしながら睨んでくる者、苦笑いする者、貰い赤面する者、いろいろな様子だ。


「さて、お化け屋敷行きますか」


 佐々木に言われてそちらへ。それも初級上級とふたつある。セオリー通り初級から向かった。
 見た目は和風の小屋じみた、昔ながらのお化け屋敷といった風情だ。


「むりむりむりむり、大丈夫待ってる」


 外観を見て拒否反応を示したのは満和。上級がいいと言うシノ。シノが待つならとなんと言い出しっぺの佐々木が残る。
 鬼島、ナツ、有澤の三人で中へ。


「俺、何か飲む物買ってくるから、大人しく待っててね?」


 佐々木に言われてベンチに座る。シノと満和のあいだは不自然なくらい距離が空いていた。


「満和さん、シノ嫌い?」
「えっ、ううん」
「この距離……」
「あ……き、緊張、しちゃうんだ。シノちゃん、かわいいから……」
「っ……満和さんのが可愛いよ!」


 スカートが捲れるのも気にせずに満和の隣へ座り直し、腕に抱きついて肩へ頬を寄せる。ふわんと香る甘い匂いや可愛らしい顔が近くにあることにガチガチに緊張する満和。そんなふたりを遠くから撮影する佐々木。
 飲み物を買うというのは口実で、まずはいちゃいちゃするふたりを思う存分見物した。


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